かわいいはずのわが子なのに、今日も叱りすぎてしまった。 叱らずに一日過ごそうと決めたはずなのに、朝からイヤイヤの連続でこのままじゃ仕事に遅れる…また「いいかげんにしなさい!」と怒鳴ってしまった。
「叱りすぎ」でこの子の心が歪むんじゃないかと気になりつつ、どうしても叱るのをやめられないというママのお悩みが年々増えています。 ここでは、子どもを叱りすぎてしまったママや、自身が叱られ続けて育ったママの体験談から「叱りすぎ」がどんな後遺症や弊害をもたらすのか、聞き取り調査してみました。
目次
後遺症その1:いつも他人の顔色をうかがう人間になってしまう!?
まずは、現在、小学校高学年の息子さんを持つYさん(38歳)の体験談です。
「小さい頃から厳しく叱って言うことを聞かせてきた影響でしょうか…。実は、いじめに加わったと担任の先生から連絡があり、学校に呼び出されました。先生が事情を聞くと、主犯格の子に、被害者の子の上履きを隠すよう言われて従ってしまったとのこと。日頃の様子を聞くと、息子はやや人との関わりが苦手で、嫌われるのが怖くて不本意なことでも従ってしまい、のびのびと過ごせていない様子だと言われました」
その子のありのままを受け入れた上で時々ガツンと叱るのは問題ないのですが、コミュニケーションの大半が「叱ること」だと、子どもは自分に自信が持てなくなってしまう傾向があります。 その結果、常に友だちや周囲の人の顔色をうかがうようになり、Yさんの息子さんのように、立場が強い相手に逆らえず利用されてしまうことも。
後遺症その2:叱られないために嘘をつく子になってしまう!?
次はKさん(35歳・5歳の男の子のママ)の体験談です。
「私ではなく、夫がものすごくきつく叱るので困っています。お手伝いなどを突然“もうやったのか?”と聞き、息子が忘れていると怒りだして、息子が理由を言おうとすると“言い訳するな!”と手が出ることも…。私がなだめても、夫は本人のためだと言って聞く耳を持ちません。最近、だんだん、息子は何か言われると、叱られないために嘘をつくようになってきています。」
後遺症その3:「叱られること」の値打ちが下がってしまう!?
Sさん(34歳・2年生の男の子のママ)も、小学校でのお子さんの行動に頭を悩ませているといいます。
「うちの子は、物心ついた頃から、○○しようねと言って1回で素直に聞いてくれたことが数えるほどしかありません。私にあり余るほど時間があればじっくり付き合えるのかもしれませんが、仕事もあるし、帰宅後ゆっくりしていたら寝るのが遅くなってしまいます。それで、保育園時代から、○○するよ!早く○○しなさい!なんでまだやってないの?いいかげんにしなさい!とエスカレートしてやっと動くという感じに…。叱ることの効果というか、値打ちがなくなってしまっていて、小学校で叱られても全くこたえず、行動を改めることがないと複数の先生に言われてしまい困っています」
後遺症その4:母親の叱りすぎがインプットされ、将来同じ子育てをする!?
そして、自分自身が幼い頃から母親に叱られ続けてきたというNさん(31歳・3歳の女の子のママ)は、
「中には自分が悪いこともあったでしょう。でも、母の機嫌が悪いと、ふだんなら何も言われないことまで責め立てられたり、そんなんで生きてて恥ずかしくないの?なと、人格を否定するような言葉を投げられたり、理不尽な叱られ方をされました。子どもができて、自分はあんな風にはならないと心に決めていたんです」
実際、Nさんは娘さんが3歳頃までは理不尽に叱ることも手をあげることもなかったそうです。
「でも、1年ほど前、私が仕事で嫌なことがあり帰ってきたら、夫が朝頼んでおいた洗濯物を干すのを忘れて出かけてしまっていてがっくり。そこへ娘がおもちゃが見つからないとぐずり出し、なだめても聞かず…。何かが私の中でプチンと切れて、娘を叩き、大声でののしり続けていました。あの頃の母と同じで、自分に対してぞっとしました。すぐ娘にはあやまり、それ以降は同じようなことはありませんが、何かの時にまたフラッシュバックしたらどうしようとおびえています」
後遺症その5:将来、「親を大切にしたい」と思えなくなる!?
同じく、両親から理不尽に叱り続けられたと感じているEさん(29歳・2歳と0歳のママ)も、
「うちは3人きょうだいですが、姉は結婚後、実家から1時間ほどの距離に住んでいますが、ほとんど実家に帰っていませんし、弟も遠方に転勤した後、もう3年以上家に寄り付きません。私は何度か孫の顔を見せに帰っていますが、だんだんと老いてきた親を見ても、当時の仕打ちがよみがえりいたわってあげたいという気持ちが起こりません。じいじ、ばあばと仲良くしているママ友親子を見ると、ふつうに育てられたんだろうな、うらやましいな、と思います」
後遺症を残さないためにはどうしたらいい?今からでも間に合う?
体験談を聞くと、子どもを叱りすぎることにはやはり大きなリスクがある…と感じたのではないでしょうか?でも、「私はもうずいぶん叱りすぎてしまった」「これからではもう遅い」と落ち込むのはちょっと待って。 子どもは、叱りすぎの影響もダイレクトに受けますが、同時に新しい接し方になじむのもまた早いものです。 これからでも次のようなことに気をつければ、後遺症を残さずにすむ可能性は十分すぎるほどあります。
「怒る」と「叱る」の区別をつける
カッとなって自分の感情をぶつけるのが「怒る」、これはいけないことだと真剣に伝えるのが「叱る」です。 迷ってしまいそうな時は、可愛がっている親戚の子など「わが子以外だったら?」と考えてみて下さい。 よその子なら普通に言い聞かせるのに、わが子には怒鳴るなど、明らかに自分の態度が違う場合は「怒り」をぶつけてしまっている可能性が高いです。 ひと呼吸おいて、あくまでも「伝える」というスタンスで話しましょう。
小さくても伝わると信じて、同じ目線で叱る
小さい子を育てるママの毎日はとにかくバタバタなので、遠くから「○○しなさい!」「○○しないで!」と指示を飛ばし、いざ子どもが失敗したりいけないことをしたりすると、「なんでそんなことするの!」上から大声で叱るというパターンになりがち。 しかし、子どもとはいえ1人の人格がありますので、できるだけしゃがんで同じ高さで目を見て伝えてあげると、叱りすぎて後遺症が残るような心配は減るはず。 また、今日は特別疲れている…というような時は、正直に「ママ、今日はすごーくしんどいの。でも、なるべく怒らないようにするからね。」と目線を合わせて話しておきましょう。 もちろんその場では「イヤ!遊んで!」などとごねる子の方が多いかもしれませんが、子どもの心の中には「ママが一人前に接してくれた」という経験が蓄積されていきます。 何も言わずにイライラして突然叱るのとでは、長い目で見るとかなりの違いです。
怒りをマネジメントする方法を知る
ここ最近、自分の怒りに飲み込まれず、うまく認めて付き合っていくための方法が広まっています。 この手法は「アンガーマネジメント」などと呼ばれ、書籍も出ていますし、インターネットでも色々な怒りを手なずける方法が公開されています。 「叱らないでおこう」といくら誓っても無理…と言う時は、こういった裏付けのある方法を実践してみると、自分1人で苦しんでいるより上手くいくかもしれません。
まとめ
ママが子どもを叱りすぎてしまう背景には、以前にも記事として取り上げた「カプセル育児」に代表されるように、多様な価値観の大人がいない環境で、つい子どもをママの価値観どおりに動かそうとしてしまうことがあげられます。 また、ワンオペ育児、特に3歳以下の子を二人以上育てているママの精神的・肉体的負担は想像を絶するものがあり、余裕のある時なら怒らないような子どもの行動にカッときてしまうことも。 かといって、共に家事や育児を分担するべき男性の長時間労働も、今日明日に是正が見込めるものではありません。
日本のこの状況を変えない限り、根本的解決にはならないのかもしれませんが、まずは今回知った「叱りすぎるとこんな後遺症があるかも…」という話を思い出すことで、少し冷静になれるかもしれません。 ぜひ頭の隅にとどめておいて下さいね。
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文/高谷みえこ