今回は鉄道車両の塗装について考えてみましょう。鉄道車両の塗装は会社のイメージを利用客に訴える大切なものなので、昔からさまざまな塗装が見られます。奥深い鉄道車両の塗装の世界を、少しだけご紹介します。

昭和を感じさせる国鉄色

train201811

「子どものときに乗った車両を描きましょう」と言うと、おそらく1980年代を境にして大きく分かれるような気がします。国鉄時代に子ども時代を過ごした世代ですと、クリーム色に赤帯の車両を描くのではないでしょうか。国鉄時代、例外はあるものの、鉄道車両の塗装は全国同一でした。

 

たとえば、特急列車はクリーム地に赤帯。寝台列車は青地に白帯という具合ですね。通勤電車は路線カラーと併せて一色塗りでした。たとえば、山手線の電車はうぐいす色、京浜東北線の電車は青色です。国鉄時代に決められた路線カラーは現在に引き継がれています。

 

さて、最も有名な国鉄時代の塗装は「湘南色」ではないでしょうか。「湘南色」はオレンジ色と緑色の2色。「カボチャ」のように見えることから、子どもは「湘南色」の電車を「カボチャ電車」と呼ぶと思います。しかし「湘南色」の題材はカボチャではなく、東海道線沿線のみかんやお茶です。

 

「湘南色」は戦後間もない頃に、東海道線の東京口でデビューしました。当時は茶色の電車や客車ばかりだったので、明るい「湘南色」はとても新鮮に映ったとか。ここから、本格的に鉄道塗装の時代がはじまった、と言っても過言ではないでしょう。 今日、国鉄色を身にまとった車両はめっきり減りました。一方、「リバイバル」の一環として国鉄色を復活させている鉄道会社も見られます。ぜひ、懐かしの「国鉄色」に出会う旅をしてみましょう。

変わらない伝統、阪急電鉄

train201811

多くの鉄道会社では時代が経つにつれ、塗装を変えるものですが、中には塗装を大きく変えない鉄道会社もあります。その代表格が阪急電鉄です。阪急電車の塗装といえば茶色に近いマルーン色。創業時からこのマルーン色がシンボルカラーとなっています。1975年に6300系が登場し、上部に白線が引かれましたが、よりマルーン色が引き立っているように感じます。

 

1990年代初頭に大幅な塗装変更の計画が社内で持ち上がったようですが、利用客の反対にあって頓挫したとか。落ち着いたマルーン色は阪急電鉄の車両だけでなく、阪急沿線のイメージカラーにもなっているような気がします。

一目見ただけで「普通」か「特急」「急行」かわかる? 阪神電鉄

train201811

阪急神戸線と並走している阪神電鉄もユニークな塗装をしています。阪神電鉄の車両を見ると、オレンジ色・赤色の車両と水色・青色の車両があることに気づきます。オレンジ色の車両は主に特急・急行系統、水色の車両は主に普通系統で働いています。阪神電鉄は特急・急行系統と普通系統で車両の性能が異なるので、色分けができるのです。

 

train201811

ところで、報道によると株主から特急・急行系統の塗装が阪神のライバル球団である巨人カラーと似ている、という指摘があるとか。阪神電鉄は塗装に関する株主の意見にどのように対応するのでしょうか。

子どもは大喜び? JR九州の塗装・デザイン

train201811

個人的に数ある鉄道車両の塗装の中で、最も近未来を感じさせる塗装・デザインがJR九州の車両です。1990年代から従来の鉄道車両の概念を覆した奇抜な塗装で一躍、有名になりました。特急列車だけでなく、普通列車にも徹底されているところがすごいですね。

 

さて、JR九州の車両デザインを担当したのがデザイナーの水戸岡鋭治氏です。水戸岡氏は自身が手がけたJR九州の車両で高い評価を得ました。現在、水戸岡氏が手がけた車両はJR九州だけでなく岡山電気軌道や和歌山電鐵、富士急行でも見られます。これらの鉄道会社の車両の塗装もなかなかユニーク。これからもJR九州や水戸岡氏の車両の塗装に期待しましょう。

海外には国旗を模した鉄道車両のデザインも

train201811

今度は海外へ高飛びしてみましょう。海外ではかつての国鉄のように、国が鉄道を運営しているところが数多く存在します。気のせいか、国の影響力が強い鉄道会社では国旗を模した塗装が多く見られます。

 

上の写真は東ヨーロッパ、ベラルーシ国鉄所属の機関車です。赤色と緑色をベースに白帯というカラフルな色をしていますが、実はベラルーシの国旗は赤色、緑色、白色で構成されています。隣国のウクライナにも同型の機関車が存在しますが、こちらは青地に黄色の帯が入っています。想像のとおり、ウクライナの国旗は青色と黄色で構成されています。 同型の機関車でありながら、国旗別に塗装するとは…。島国、日本ではなかなか考えられない芸当ですね。

 

取材・文・撮影/新田浩之