ご存知のとおり、日本は技術大国、鉄道大国です。かつて、日本は世界初のとある電車を生み出しました。その電車は日本らしく、昼夜問わず大活躍。今でも多くの鉄道ファンから尊敬されています。一体、どのような電車でしょうか。さっそく見ていくことにしましょう。

日本が生み出した世界初の電車とは?

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それはズバリ「寝台電車」です。1967年、旧国鉄は世界初となる寝台電車581系を登場させました。当時、寝台列車といえば客車オンリーの時代。そのような時代に常識を覆す電車を登場させたのです。

 

581系のポイントは寝台列車の電車化だけではありません。昼は昼行列車、夜は夜行列車と24時間マルチに働ける仕様でした。つまり、一般的な座席をベッドに変えられたのです。昼は座席車、夜は夜行列車というマルチな電車は2018年9月現在、後にも先にも登場していません。 このようなマルチ電車が登場した背景には高度経済成長が挙げられます。高度経済成長の波に乗って、国鉄も全国各地に特急列車や寝台特急を誕生させました。特急のデビューが相次いだことで有名な白紙ダイヤ改正「ヨン・サン・トオ」は1968年のことです。特急列車の増発に応えるために、昼夜マルチで働ける新型列車が必要になった、というわけです。

 

ところで、一般的に581系よりも583系のほうが知られているかもしれません。581系と583系の違いは前者が直流&交流60Hz、後者が直流&交流50/60Hz対応になっていること。つまり、583系は全国どこでも働ける車両になります。 581系はさっそく、新大阪~博多間の寝台特急「月光」、新大阪~大分間の昼行特急「みどり」に投入されました。1968年には583系の量産を開始。東北から九州まで全国あらゆるところで活躍しました。もちろん、旧国鉄の看板電車でもありました。

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このまま長きにわたって活躍すると思いきや、そうはなりませんでした。1980年代になると、次々と昼間の特急列車から離脱。中にはローカル線(東北本線、北陸本線、長崎・佐世保線)向けに近郊型に改造されるものまで現れました。1994年に寝台特急「はくつる」から撤退し、583系は定期で運行される寝台特急の運用を失いました。

 

583系の活躍が短命に終わった理由はいくつか挙げられます。一つ目は座席&ベッドの構造に問題がありました。夜はベッドでしたが、昼はボックス型の座席車でした。時代が経つにつれ、特急列車の車内はリクライニングシートが当たり前に。つまり、ボックス型の座席を持つ583系は見劣りしたのです。

 

二つ目に新幹線の延伸が挙げられます。583系が登場した1960年末以降、山陽新幹線や東北新幹線が開業しました。新幹線が開業する度に、特急列車は廃止される運命に。そのため、昼夜マルチで働く意義も失ったわけです。

 

三つ目は車体の急速な老朽化です。さすがに、車両も昼夜にわたって働くと、一般の車両と比べると老化も早まります。1994年の「はくつる」からの撤退により、583系も20世紀中に全廃されるのでは…と個人的に思いました。

 

ところが、583系は臨時列車用としてしぶとく生き残り、運用を終了したのは2017年のこと。ここまで長生きした理由はいろいろあるのでしょうが、ひとつには鉄道ファンからの熱い応援があったからでしょう。なお、京都鉄道博物館に行くと、美しい姿で保存されている581系に会えます。

今でも寝台電車は走っている

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実は583系には頼もしい後輩がいます。それが1998年に登場した285系「サンライズエクスプレス」です。285系は583系とは異なり純粋な寝台電車なので、昼間には運行されません。 定期運用は寝台列車「サンライズエクスプレス(東京~出雲市・高松)のみです。寝台電車が”復活”した背景には激化する航空機や高速バスとの競争が挙げられます。客車はどうしても加速が遅く、スピード勝負には向きません。

 

一方、電車は加速がスムーズなので、客車と比べると時間短縮が望めます。 285系は一部を除き、全て個室の車両。車内のレイアウトは大手住宅メーカーが手がけたので、家にいるような気分にさせてくれます。

 

また、乗車券と特急券だけで乗車できる「ノビノビ座席」も魅力的な存在。カーペット状になっており、横になって移動できます。 私は「サンライズエクスプレス」に何度か、乗ったことがあります。やはり、電車なので加速がとてもスムーズ。客車のような加速時に発生する変なショックがありません。

 

また、客車と比べると時速100キロを超えても、音は静か。十分、航空機や高速バスに対抗できると思います。 「サンライズエクスプレス」が誕生して、今年で早20年。まだまだ、活躍は続きそうですが、次世代の寝台電車にも期待するのは私だけでしょうか。世界初の電車の伝統を引き継いでほしいものです。

 

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文・撮影/新田浩之