「暑いから、そうめんでいいよね」なんて、夏の常套句を繰り返してきたことを、そうめんに心からお詫びします。これだけ毎年、お世話になっていながら、私たちはそうめんのことをこれっぽっちも知らないんだということを、今回の取材を通して改めて思い知りました。
手軽に作れるだけじゃない!そうめんの奥深い魅力とレシピを、そうめん研究家・ソーメン二郎さんに聞いてきました。全5回にわけてお歳暮がわりにお届けします。きっとこの夏、もっとそうめんが好きになるはずです。
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まず、そうめんは悪くない!
夏が近づいてきて、スーパーでもそうめんをよく見かけるようになってきましたね。
ソーメン二郎さん:
そうですね。最近は、ゴールデンウィークにはすでに暑くなってきているので、スーパーなどでは3月末くらいからそうめん売り場ができ始めています。食べる期間も以前は7・8月だけでしたが、4~9月くらいまで延びました。それだけ需要と生産量がふえているのは嬉しいことです。
というのも、今、そうめん業界は危機的状況に陥っているんです。僕の本家はそうめん発祥の地、奈良県桜井市にある『植田製麺所』という三輪そうめん製麺所で、今は義理の姉と兄貴が継いでいるのですが、実はもう後継ぎもいないような状態ですね。どこの製麺所も一緒で、職人さんは70〜80代というところが多いんです。このままいくと、はっきり言って10年後にはおいしいそうめんが食べられなくなってしまいます。 そこでこの危機的状況をなんとかしようと4年前から“そうめん研究家”としてそうめんの復権活動を始めたというわけです。おいしいそうめん作りは職人さんの仕事。すぐに習得できるものではない伝統の技なので、歌舞伎や落語と一緒です。なくなってしまったら嫌ですよね。
それは嫌ですね…。おいしいそうめんをなくさないために二郎さんはどのような活動をしているのですか?
ソーメン二郎さん:
メディアでそうめん業界の現状やそうめんの種類、新しい食べ方などを発信したり、東急ハンズ全店のそうめん売り場をプロデュースしたり。そうめんイベントなども開催しています。これまで活動してきた結果が売り場やメディアにすごく広がってきていて、5年間で右上がりの前倒しです。昨年は夏だけでテレビやラジオ、雑誌、新聞、WEBなど300本もの取材オファーをいただきました。
そもそも、そうめんは今までなぜか悪役だったわけですよ。手ぬき料理だったわけです。でも、そうめんも悪くないし、ママだって悪くない。問題はワンパターンのレシピなんです!だからこそ、そこを変えていく。文句ばっかり言っていたら食べたくないじゃないですか!そうめんが廃れていかないように、僕が生きているあいだにどうにか逆転満塁ホームランを打たないといけない。そういう使命感を感じながら活動しています。
ワンパターンのレシピ……。たしかにそうめんって、いつも麺つゆにつけて食べるくらいしかしませんね。
ソーメン二郎さん:
あとでレシピをいくつかご紹介しますが、そもそもみなさん、そうやってめんつゆで食べるでしょ?それもカツオ出汁とか、割と濃い出汁で食べますよね。そしたらその出汁の味しかしないんですよ。さらに、そうめんを器に盛りつけるとき、氷を入れて水をはって食べるでしょ?それをめんつゆにつけるもんだから、どんどん味が薄くなっていくわけです。おいしくない状態のものを延々と食べ続ける…みたいな。だから最後は食べるのが嫌になるんです。あまったそうめんをそのまま水に浸かった状態で冷蔵庫に入れる人もいるでしょ?麺は伸びるしカルキ臭もするし、そうめん職人からするともう屈辱ですよ(笑)。
そうめん研究家が伝授する!
おいしいレシピの基本、これが正解
僕は、まずはそうめん自体のおいしさを味わって欲しいんです。脱・めんつゆにするとそうめん自体に意識がいくようになります。最初は、少量でいいのでオリーブオイルと岩塩、それと生のバジルがあればパラパラっとかけて食べてみてください。オリジナルの原料だけで味わうとそうめんの食感や味の違い、喉越しが明らかにわかるんです。「そうめんっておいしいんだな」とか「このコシがすごい!」って。
そのやり方でいろいろなそうめんを試してみてください。実は全国各地に製麺所がたくさんあって、それぞれ味が違うんです。きっと自分が「おいしい!」と思うそうめんが見つかるはずです。5種類買っても1000〜2000円程度。それでひと夏遊べます(笑)。オリーブオイルや岩塩などを変えてみてもおもしろいと思います。
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そうめん料理研究家・ソーメン二郎
そうめん研究家、『そ道』 家元。奈良県桜井市生まれ。三輪そうめん製麺所『植田製麺所』の家系に生まれ、全国各地のそうめんを食べ歩き、そうめんの復権活動を行う。「ソーメン道」ブログ主宰http://somendo.blogspot.jp/。書籍『簡単!極旨!そうめんレシピ』(扶桑社刊)を監修。
文/田川志乃 撮影/粕谷麻衣子