東京都内で1歳の子どもを育てる専業主婦のナヲさん(35歳)が、日本の最北端にほど近い人口約3000人の小さな町、北海道天塩町の「公認インスタグラマー」に就任したのは、今年の4月。現地から定期的に届く新鮮な旬の食材で料理を作ってインスタグラムにアップし、食を通じて町の魅力を伝えるのがナヲさんの役割です。 時間や場所に制限されず、好きなことで報酬を得る――。そんな理想の働き方を実現しているナヲさんにインタビュー! 一風変わった経歴を持つ彼女のキャリアストーリーと、次に目指す働き方の“未来図”とは?
色鮮やかで温かみのある家庭料理が人気! フォロワー数は約7万7千人
ナヲさんがインスタグラムに手料理の写真を投稿すると、たちまち数千を超える「いいね!」が付いた。この日のメニューは、オリジナルの“アボトマバーグカレー”。トロトロに煮込まれたカレーライスをぐるりと囲むように、ふっくら肉厚のハンバーグとアボガド、その横には、丸ごとトマトがゴロリと添えられ、ボリュームたっぷりのひと皿。テーブルの向かい側には、クマのぬいぐるみをひざに乗せた家族の姿も。思わず一緒に食卓を囲んでいるかのようなほっこり優しい気持ちにさせられます。 「インスタに投稿されている料理写真は、おしゃれで素敵なものが多いけれど“家族の気配”を感じられるものはあまり見当たらなかったんです。そこで、料理だけでなく、家族団らんの雰囲気も伝わるような構図にしたいなと考えました」
ナヲさんがインスタを始めたのは、2年前。“毎日の料理作りのモチベーションになれば”と考えたことがきっかけでした。彩り鮮やかで温かみのある手料理が話題となり、多くの女性たちの支持を獲得。現在のフォロワー数は、約7万7千人にも! 彼女の料理を心待ちにしている人が大勢います。“インスタ上での交流も楽しみのひとつ”と、ナヲさんは目を輝かせます。 「郷土料理を作って写真を投稿した時には、“私の故郷です”“懐かしい”とか“こんな料理があるなんて知らなかった”“新鮮だ”といった嬉しいコメントをたくさんもらい、温かい気持ちになりました。料理を通じて、日本の食文化の魅力も発信していければいいなと思っています」
研究者の卵として、単身ブラジルへ渡航
現在は、専業主婦として子育てに専念する日々をおくっているナヲさんですが、20代の頃は、大学院で人類学の研究に打ち込む“研究者の卵”でした。在学中に「ブラジル日本移民百年史編纂委員会専門調査員」に選ばれ、3年ほどブラジルで生活した経験も。 「ブラジルでは、庶民の主食はお米と豆なんです。私も、現地の人たちにいろんなレシピを教わりながらブラジルの家庭料理をよく作っていました。ブラジルには、かつて日本人移民の方が持込み開発された、日本の野菜や果物が広く流通しているんですよ。立派な富有柿が“CAQUI(カキ)”という名前で市場に売っていたりします。「地球の裏側」ではありますが、文化的な面でも日本人になじみ深いところがあると思います。
26歳で帰国した後は、研究に関わる仕事もしながら、旅行会社で働きました。 「研究の仕事は、毎日あるわけではなかったので、それだけでは生活が成り立たなくて。旅行会社を選んだのは、もともと“乗り鉄”で(笑)旅行が大好きだったから。シフト制で融通が利く職場だったので、両立するのに都合がよかったんです。時間をみつけては、頻繁に旅にも出かけ、幼少期の家族旅行も含めて47都道府県を制覇しました」
しばらく“2足のわらじ”生活を続けていたナヲさんでしたが、30代を目前に、研究者の道を断念することに。 「研究の世界で食べていくのはなかなか困難。いろいろと考えた結果、これまで取り組んできたテーマには、違う形で関わっていこうと発想を切り替えることにしました。学芸員や教員の資格を生かしたボランティアでもいいし、SNS等で情報を発信していく手もある。視点を変えれば、いろんな可能性が見えてきます。今後はライフワークとして自分なりに関わっていこうと決めました」