子供はもちろん、大人も楽しめる一番前から風景を見る、前面展望。ボーッと流れゆく景色を見るのも楽しいですが、ちょっとした知識を知っていると、より鉄道が楽しめます。今回は前面展望の豆知識をお伝えします。どうぞ、子供と一緒に前面展望を心ゆくまでお楽しみください。

知ってるだけで100倍楽しめる!鉄道の前面展望!豆知識

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そもそも、どうやって電車を動かすの?

まずは電車の動かし方を見ていきましょう。本当は機関車や気動車(ディーゼルカー)の動かし方を説明したいのですが、ここでは最もわかりやすい電車の動かし方を説明します。 それでは上の写真を見てください。

 

こちらは兵庫県神戸市や播州地域を走る神戸電鉄1000系の運転台です。電車は車とは違い、マスターコントローラー(マスコン)とブレーキを使って運転します。左がマスコン、右がブレーキです。現在は電車が駅に停車している状態です。この状態で電車を動かすには以下の作業をしなければなりません。

 

【電車の動かし方】


  1. ブレーキを手前に回し、ブレーキを解除します。
  2. ブレーキを解除したら、マスコンを右に回して電車を前進させます。
  3. ある程度スピードが出たら、マスコンを回して写真の位置に戻します。すると電車は加速せず、惰性(そのままの速度)で走ります。
  4. 電車が駅に近づいてきたら、ブレーキをかけて電車を所定の位置に止めます。

 

本当はもっと細かく書かないといけませんが、取りあえずこのあたりで。このように見ると、電車と車の運転はまったく違うことがわかります。特にブレーキには注意したいところです。

 

ご存知のとおり、電車は急に止めることはできません。かつて、国の法律では新幹線以外の車両において非常ブレーキをかけて、600m以内に止めることが定められていました。現在、この法律はありませんが、多くの鉄道会社で運用されています。

 

よく「在来線で時速160キロは走れないのですか」という質問を受けます。実はスピードアップで最も困難な問題はブレーキ性能です。時速160キロの状態で、いかに安全に短距離で止められるか。これは本当に難しい技術です。

 

さて、今度は耳に注目しましょう。ドアが閉まり、電車が発車しようとすると「ブー」とか「チリンチリン」という音が聞こえてきませんか? これは後ろにいる車掌が「電車を動かしても大丈夫ですよ」という合図です。

 

運転士はこの合図を聞き、前面の安全が確認できたら、電車を動かします。 なお、後ろに車掌がいない場合は運転士がドアの開け閉めをしないといけません。運転士が車掌の役割を担うやり方を「ワンマン運転」といいます。ワンマン運転に対応している運転台ではドアの開け閉めをするためのスイッチもあるはず。一度、探してみましょう。

マスコンとブレーキが一体となったワンハンドルマスターコントローラー 

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今度は兵庫県川西市と大阪府豊能郡豊能町を走る能勢電鉄7200系の運転台をチェックしましょう。先ほど見た神戸電鉄1000系の運転台とは大きく異なっていることがわかります。先ほどはマスコンとブレーキがありましたが、今回の運転台は1つしかありません。

 

このタイプの運転台は「ワンハンドルマスターコントローラー」と呼ばれ、マスコンとブレーキの一体型になっています。ちなみに、先ほど見た2ハンドルタイプの運転台は「ツーハンドルマスターコントローラー」と呼ばれています。

 

さて、ワンハンドルマスコンはツーハンドルマスコンの運転方法と比べると簡単です。コントローラーを運転士側に引っ張ると電車が動きます。反対にコントローラを奥に押し込めるとブレーキがかかります。惰性で走りたい場合は真ん中に持っていくとOKです。ワンハンドルマスコンを見ると、思わず手を放して運転するかもしれません。

 

しかし、手を放すと大変なことに!コントローラが自動的に奥に進み、急ブレーキがかかってしまいます。したがって、ワンハンドルでもツーハンドルでも手ぶらで運転することはありえません。 当たり前ですが、電車を運転するには免許が必要です。ところが、最近は免許がなくても運転できるイベントが続出!イベントによっては子供でも実際の電車を動かすことができます。

 

もちろん、プロの運転士がしっかりとサポートするのでご安心を。車庫内での短い運転体験ですが、子供だけでなく大人にとっても貴重な体験になるでしょう。

前面展望を楽しむ際の注意点

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最後に前面展望を楽しむ際の注意点を書いておきます。

 

まず、列車を運転するにはそれなりの注意力がいります。前面展望をする際は友達と騒がないようにしましょう。ちなみに、筆者が幼稚園児のとき、運転台の近くで友達と騒いでいたら、運転士に睨まれたことがあります。

 

また、運転士も人間ですから、あまり運転士を見つめると気になって運転に集中できないようです。メインは前面展望にするといいでしょう。前面展望を楽しみつつ、運転士に配慮することが大切です。

 

取材・文・撮影/新田浩之