勉強ができないわけではないのに、学校生活がうまく送れない。なぜか友だちを怒らせてしまう…このようなできごとがあまりに続くと、親も不安になるもの。「最近よく聞く“発達障害”なのでは?」と悩むママも少なくないようです。
大人の発達障害が注目されるとともに、子どもの発達障害についても、以前よりははるかに理解が進んできました。子どもの発達障害としてよく知られているものは、大きく分けると次の3つです。
発達障害の種類
1)自閉スペクトラム症…コミュニケーションがうまくとれない一方で、関心のあることには熱心に取り組み、高い能力を発揮することも。知的障害のある子もいれば、まったくない子もいる。2)限局性学習症…知的発達は正常なのに、読み書きや計算など、特定の能力を習得できない。くり返し教えてあげても、どうしてもできるようにならない。
3)注意欠如・多動症(ADHD)…不注意な行動が多く、いわれたことをそのとおりにできない。そわそわと動き回ることが多く、周囲のことを気にせずにしゃべりつづけることも多い。
いつもの行動から、ADHD症状をチェック
3つの発達障害のうち、とりわけ多くのママが心配しているのが「ADHD」。落ち着きがなく、そそっかしく、自分の興味のあることばかりしゃべるというのは、子どもにはめずらしいことではないからです。
そこで今回は、ADHDの子の特徴を見ていきましょう。次のチェックリストで、[A][B]どちらも6つ以上あてはまり、それが半年以上つづいているなら、ADHDの可能性があります。
[A]
□こまやかな注意ができず、ケアレスミスをしやすい
□注意を持続することがむずかしい
□話をしていても、うわの空で、注意が散漫
□指示にしたがえず、宿題などの課題ができない
□課題や活動をうまくこなせない
□精神的努力をつづけなくてはならない課題が苦手
□課題や活動に必要なものを忘れがち
□音などのいろんな刺激で、すぐに気が散る
□日々の活動を忘れがち(洗顔、歯磨き、服薬など、毎日おこなうような行動)
[B] □着席中に、手足をそわそわ、もじもじさせる
□着席していなくてはならない場面で、席を立つ
□不適切な状況で、走り回ったりよじ登ったりする
□静かに遊んだり、余暇を過ごしたりできない
□突き動かされるように、じっとしていられない
□しゃべりすぎる傾向がある
□質問が終わる前に、うっかり答え始める
□ほかの人のじゃまをしたり、割り込んだりする
専門クリニックか小児科を受診しましょう
チェックリストで、それぞれ6つ以上にあてはまった場合には、どうすればいいのでしょう?慶応義塾大学病院小児科の関口先生に聞いてみました。
「これらの項目に該当するからといって、あまりあわてないことが大切です。
たとえば“注意が持続できない”とひと口にいっても、どこまでが正常で、どこからが度を超えているかは、専門家が診てみないとわからないもの。医師によって見解が異なる可能性も、ゼロではありません。
発達障害専門の医療機関で診てもらえればいいのですが、その多くが全国から予約が殺到していて、すぐには診てもらえないのが現状です。数か月待ちはあたりまえで、1年以上待たなくてはならないクリニックもめずらしくありません。
それまで待てないくらい心配なとき、学校生活などに支障が出ているときは、まずは近くの小児科でもいいので、医師に相談してみましょう」
子どもの特性を知って、うまくつきあう
医療機関を受診し、ADHDと診断されることは、少なからずショックをともなうもの。
けれど、「うちの子はどうして普通にできないの?」というもやもやした思い、「育てかたに問題があったのかも」という不安から、抜け出すきっかけになることもあるといいます。原因がはっきりすれば、どう関わっていけばよいかを考えることもできます。
「ADHDといっても、症状の出かたはいろいろですし、本人の受け止めかたにも差があります。“どうしていつも失敗するんだろう”“周囲から浮いてしまうんだろう”と、自分なりに違和感を抱えている子は、診断がつくことでラクになることもあります。
一方で、ADHDという診断をうまく受け入れられなかったり、将来への希望が断たれたような気持ちになるお子さんもいるかもしれません。この点はママも同じです。
診断も大切なのですが、それ以上に大事なのが、自分の特性を理解し、うまく生きていく方法を見つけること。診断はそのための一助と考えてください。
薬を使って治療することもありますが、何に困っているかをよく聞いて、具体的なアドバイスをしてあげるだけで、社会生活に適応できるようになっていくこともあるんですよ」
曖昧な話は苦手…アドバイスは具体的に!
とくにどんなところでつまづくか、うまく適応できないかを、ママの視点で把握することも大切です。そのうえで、やりとりはできるだけ具体的に。ADHDの子は、「状況を考えて行動する」「空気を読む」ことが苦手だからです。
時間や予定の管理が苦手であれば、「何時何分に家を出て、塾に行く」というように、手帳などにひとつひとつ書きます。スマホにすべて入力しておく方法で、自分なりに管理している子もいるそう。“これならうまくできる”という方法を、いっしょに考えてみましょう。
人間関係が苦手な子も多いので、友だちを怒らせてしまったときの状況などを聞いてみるのも、ひとつの方法。たいていは、相手の気持ちを想像することが苦手なので、「〇〇ちゃんは、こう感じたのかもしれないね」と、相手の目線で考えられることを伝えます。
同じような状況で、どのように言葉を選ぶといいかを教えてあげると、少しずつうまくできるようになることもあります。
「みんなと同じにできてあたりまえ」とママが思っていると、そのためにつらくなってしまう子どももいます。“うまくできることもあれば、できないこともあるよね”という視点で、おおらかに関わっていくことも、大切かもしれません。
取材協力:関口 進一郎
慶應義塾大学助教(医学部小児科学)。子どもの総合診療を専門とし、周産期・小児医療センターでは「生活空間から子どもを診るチーム」として外来を担当。“生活環境が子どもの健康に影響を与えていないか”“就学・進学などの変化が健康に影響していないか”など、幅広い視点から子どもの心身を理解し、診療に当たっている。
文/川西雅子
《参考文献》『小児科診療ガイドライン ―最新の治療指針― [第3版]』五十嵐 隆編(総合医学社)『DSM・ICD対応 臨床家のための精神医学ガイドブック』池田 健著(金剛出版)『臨床家のためのDSM-5 虎の巻』森 則夫・杉山登志郎・岩田泰秀編著(日本評論社)