憎たらしいほどかっこいいゲス男
ハギオは好きになっちゃいけない男!と頭ではわかっていても、惹かれてしまうタイプの魅力たっぷりな男です。何も考えていそうもないのに、恋愛の駆け引きがとても上手いのです。憎たらしいほど、かっこいい男なのです。
「お前、俺のこと本当に好きだったよね」 「でも、俺はそんなお前が嫌いでさ」 「今は好きだよ」
二人の男の間で心が揺れ動きながらも、昔のようにまっしぐらにハギオの元へ走るほどコドモでもないツチダ。ハギオの言葉にチクっと感じたり、きゅんとしたりすることはあっても、クールな表情で対応できるくらいの大人の女性には成長しているのです。せいちゃんとうまくいかない現実から逃げるため、ハギオの存在を利用するくらいの余裕、ずるさも持ち合わせているのです。
ツチダ、せいちゃんのキャスティングもぴったりですが、ハギオのハマりっぷりは最高です。オダギリジョー以外、考えられません。ニヤニヤ顔で女心を弄ぶゲス男を魅力たっぷりに演じています。ダメなのにその佇まいに惹かれてしまいますよ。
せいちゃんのラブソングに涙!
お風呂場でギターを奏でながら歌うせいちゃんもおすすめですが、なんといっても一押しは、コンガを叩きながらアカペラでラブソングを披露するシーンです。「気軽な感じで聞いて」と出来あがった曲を披露するせいちゃんですが、ツチダを想って作った優しい曲であることは伝わってきます。
それまではギターで歌っていたのに、ラストではコンガを選ぶせいちゃん。ギターを片手に披露すれば、思いっきりラブソングな雰囲気になりそうなところに、コンガ!「やるなぁ、せいちゃん!」なベストシーンです。
少し照れながら、そして優しく微笑みながら歌うせいちゃんの姿に、「その歌がとてもやさしくて、かわいくて、尊くて、私は泣いた」と語るツチダ。この曲を表すぴったりの言葉です。
原作に登場する野良猫の名前・ヒゲちゃんが、曲のタイトルになっているところも、絶妙で良い!原作ファンの心もガッツリ掴んでいます。
「3回まわってニャアと鳴く」
鳴いているのは猫なのか、せいちゃんなのか。ぜひ、本編を見て考えてみてください。
甘いだけの恋愛はつまらない。ちょっぴりビターでも物足りない。少し痛いくらいがちょうどいい。絶妙のキャスティングで原作ファンも、映画ファンも満足させた大人の恋愛映画をご堪能ください。
文/タナカシノブ