子どもが幼いときに離婚、その後「子どもが夫に似てきて複雑な心境になる」と、女性たちからときどき聞くことがあります。離婚したときに夫を恨んでいればいるほど、胸中はつらいのでしょう。

家族を大事にしない夫に対して下した妻の決断

タカコさん(40歳・仮名=以下同)は、30歳のときに3歳年上の男性と妊娠を機に結婚しました。交際半年のスピード婚でした。

 

「結婚3か月で長女を出産。私も仕事を続けようと思ったのですが、長女は先天的な病気があって産まれて半年で手術することになり、仕事はあきらめました。2歳になるまでに合計3回も手術したんです」

 

ようやく元気になった長女を見て、夫も涙を流して喜んでいたのですが、それも長くは続きませんでした。

 

もともとお互いを理解しあって結婚に行き着いたわけではなかった、とタカコさんも言います。

 

それでも家族の形ができれば、夫婦も寄り添い合えるのではないかと彼女は考えていました。

 

「ふたりとも合わないなと思っていたんです、たぶん。でも私はせっかく結婚したのだから、家庭を壊したくなかった。

 

夫の顔色をうかがいながら、なんとかうまくやっていこうと思っていました」

 

長女が2歳のとき、第二子の妊娠が発覚。これで夫も、もう少し家庭に目を向けてくれるかもと思った矢先、タカコさんの思いとは逆に夫は浮気を

 

「もうだめだと思いました。夫はほとんど家事もしなかったし、週末も学生時代の友達と遊びに行ったり、ひとり旅行にでかけたり。

 

家族という考えがもてなかったんでしょう。そこへもってきて浮気ですから、私も頑張る気力をなくしました」

 

まずは大きなおなかを抱えて長女を連れ、実家に戻りました。

 

浮気の証拠を集め、弁護士と相談しながら離婚協議に入ると、夫は親権のことにも触れず、「養育費の額だけ決めてくれ」と言う始末。ある程度の慰謝料も確保できて離婚しました。

元夫の顔に似てきた息子を見ると恨み辛みがよぎって

離婚に際して揉めるのもつらいものですが、あっさり応じられると「私と子どもの存在は何だったんだろう」と考えてしまったとタカコさんは言います。

 

「それでも息子を産んで実家に戻り、就職先を見つけて働き出しました。ずっと実家に甘えているわけにもいかず、私が子どもたちを守らなければいけませんから」

 

息子が6歳になったころのこと。「ママ」とタカコさんを見た顔が、元夫に激似していてハッとしたそうです。同時に元夫への恨み辛みが一気によみがえってきました。

 

「このままだと息子に八つ当たりしてしまいそう。ふだんはかわいくてたまらないのに、ふとした拍子に元夫と同じ顔に見えてしまう。

 

両親にも相談できなくて、私はダメな母親だと落ち込んでいきました」 

「息子は唯一無二の存在」と諭してくれた人の存在

そんなときに、息子を預けている保育園の保育士で同い年のマサトさんが相談にのってくれました。

 

独身で結婚経験もない彼に、なぜかタカコさんはすんなり自分の思いを伝えることができたそう。

 

「気にしないほうがいいですよ。息子くんは唯一無二の存在なんですから」

 

マサトさんはそう言いきってくれました。唯一無二の存在という言葉にタカコさんは心を揺さぶられました。

 

夫の子であることは変わらないけれど、息子は息子。そう考えることができたそうです。

 

「それ以来、何かあるとマサトさんに相談することで、なんとか自分を穏やかに保つことができました。

 

夫の悪いところが似たらどうしようとか、私が息子を愛せなくなったらどうしようとか、いろいろ不安に感じていましたが、マサトさんはすべて一蹴してくれる。

 

息子は息子。その言葉でどれだけ救われたか

 

タカコさんは今、自分を救ってくれたマサトさんとつきあいを深めています。来年、息子が小学校に入ったら本格的に交際を始める予定。その先に結婚まで見据えているということです。

亀山さん連載イラスト1
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文/亀山早苗 イラスト/前山三都里

※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。