子どもの頃から片頭痛に悩まされ、社会人になってからも「片頭痛くらいでは休めない」と我慢し続けていた──。製薬会社の日本イーライリリー株式会社に勤める小林舞さんは、女性に多いと言われる片頭痛で、長年つらい思いを一人心に閉じ込めていたそうです。
どうしても我慢できない痛みが何日も続いたとき、ようやく意を決して上司に相談したという小林さん。その一歩をきっかけに、つらい症状との向き合い方が変わったといいます。
ハンマーで殴られたような痛みが突然始まり
── 片頭痛が始まったのはいつ頃で、どんな症状なのでしょうか。
小林さん:
小学生の頃からです。ハンマーで突然殴られたような痛みで、頭がガンガンして、脈に合わせてズキズキと痛みが続きます。
音や匂い、光で痛みが悪化して、発作が起きるのですが、起きていられないくらいひどくなることも。「閃輝暗点(せんきあんてん)」という症状で、突然、目の前に光が放ったようにチカチカする前兆があった後、半分くらい視界が消えてしまうんです。パソコンのモニターもだんだん見えづらくなって、しばらくするとひどい頭痛と吐き気が起きて、立っていられなくなります。
── それはつらいですね…。上司の方にはじめて相談したのはなぜですか?
小林さん:
1か月ほど毎日のように発作が起きていた頃で、我慢も限界を感じて休まないとどうにもならないという状況になってしまって。「片頭痛がひどくてつらい」と上司に相談したんです。単なる体調不良では通用しないと思って、初めて片頭痛のことを話しました。
発作は突然起きて、つい数分前までは元気だったのに頭痛が始まって、意識がもうろうとして、座っているのも立っているのもつらくなっていました。
「片頭痛は理解されにくい」と諦める経験も多かった
── これまでは、片頭痛の症状が起きても我慢して仕事をしていたのですか?
小林さん:
はい。「片頭痛でしんどい」と言ってはいけないと思っていました。症状のつらさは理解されにくいし、「大げさ」「たかが頭痛」と思われるのではないかと決めつけていました。また、「身体がしんどい」と言うことで、「この人は身体が弱い」「あまり仕事を任せられないかも」と思われるのも怖かったんです。一人で「言ってはいけない」と思い込んでいました。
── 「言いづらい」と思う理由もあると思います。
小林さん:
そうですね。片頭痛の痛みは理解されづらいので…。「ただの頭痛でしょ?」「頭痛は病気じゃない」などと言われたこともありますし。むしろ風邪で熱が出たほうが、よほど病気だと認めてもらえるんですよね。
「片頭痛」というと、「頭が痛いくらいで仕事を休むのか」「大げさではないか」と思われる風潮はいまだにあるのではないでしょうか。
上司から「ヘンズツウ部」を勧められて活動に参加
── 小林さんは「なかなか理解されない」もどかしさとつらさを経験し、思い切って上司の方に片頭痛のことを打ち明けたのですね。そのときはどんな反応でしたか?
小林さん:
思っていた以上に理解を示してもらえて、拍子抜けしました。そのときに「最近こういう部が立ち上がったみたいだから入ってみたら?」と、「ヘンズツウ部」を勧められたんです。
ヘンズツウ部は2019年夏頃に有志7名のメンバーが立ち上げた活動で、片頭痛を持っている社員とそうでない社員たちが片頭痛の症状や悩みを共有しながら、より働きやすい職場環境をつくろうというものです。
私は、初期メンバー募集時に入部しました。当時は50名ほどでしたが、いまや約120名に増えました。日々わいわいと語り合いながら、社外にも活動を広げています。
── 小林さんはどのような活動に参加しているのですか?
小林さん:
片頭痛の経験談をおしゃべり感覚で語り合うワークショップに参加したり、カードゲームのような遊び感覚のツールを使って、片頭痛の知識を深めていったりしています。私は参加者の一人として楽しんでいます。
予想以上にポジティブだった周囲からの反応
── ヘンズツウ部を通して、小林さん自身に何か変化はありましたか?
小林さん:
すごくありました。まず、身体がつらいときに「しんどい」と言えるようになったのは大きいですね。自分の身体や弱さについて、「伝える」というハードルが以前よりも下がったと思います。
「片頭痛でしんどい」と周囲に伝えたときの反応が予想以上にポジティブだったのは、意外だったし、もっと早く言えばよかったと思いました。
私としては「こんなに仕事が忙しいときに申し訳ない」という気持ちばかりだったのですが、周りの方には「別に申し訳なくなんかない」と言ってもらえて。こんなに理解されるとはまったく想像していなかったので、ありがたいし、嬉しいことです。
── 仕事面では何か変化はありましたか?
小林さん:
「今日は休む」と決めてしっかり身体をいたわることで、次の日からは効率よく働けるようになったと思います。毎日にメリハリが生まれました。
会社でも「お互いさま」の精神で相互理解し合いたい
── 片頭痛をはじめ、表面にあらわれづらい症状で悩む人たちに伝えたいことはありますか?
小林さん:
私のように痛みがわかりづらい疾患を持っている人は、「言いづらい」「周囲に理解されないのではないか」という不安が大きいのではないでしょうか。
でも、疾患や働き方に対する社会の理解が広がっていることもあって、意外と周りの人たちはそんなふうに思っていないのかもしれません。「身体がつらいときは休んでいいし、そんなに無理をする必要はない」と理解してくれる人も多いように思います。
ほんの少しの勇気を出して、「身体がつらい」と伝えれば、周りの反応が自分の思っていたのとはきっと違うはずです。
── 自分が言い出すことで、症状や状況を理解してくれる人が増えることにもつながりそうですね。
小林さん:
そうですよね。それに、片頭痛が特別な病気なのではなく、誰だって、いつどんな症状が突然起きるかわかりません。誰にでも健康にまつわるリスクが潜んでいて、症状で困ったときには、「お互いさま」で理解し合えるといいなと思います。
取材・文/高梨真紀 画像提供/日本イーライリリー株式会社