遠く離れた熊本の実家で父が孤独死していた編集者の如月サラさん。死後1か月にその経過と思いを書いたnoteが翌日には約7万viewを獲得して話題になり「日経xwomanARIA」で連載。その後書籍「父がひとりで死んでいた」(日経BP)にもなりました。大切なのは親が亡くなったとき、自分の心を守るための「思い出づくり」だといいます。どういうことでしょうか。

如月サラさん

空き家の火災予防に警備会社を利用

── 空き家になった実家は今後どうなさるおつもりですか。


サラさん:
認知症で施設に入っている母がまだ存命ですし、母が土地の権利者なので、今売るわけにはいきません。今後母が亡くなったら、ひとりっ子で独身、都内で仕事をして暮らす私はすぐ熊本の家を売るのかというと、それも躊躇があると思います。生まれ育った土地ですし、天災の報道を聞くたびに、東京以外の場所に居場所があるというリスクヘッジについても考えます。

 

── 家の維持費はいかがでしょうか。

 

サラさん:

思ったほどはかかりませんでした。固定資産税は年間12万円程度。ガスはもう使わないので契約を解除しました。水道もほとんど使いませんし、電気も60から30アンペアに落としています。悩んだ末に、先日、車も処分しました。

 

ただ、植栽や庭の手入れが大変です。昨年はシルバー人材センターに頼んで木の枝の剪定をしてもらいました。帰省するたびに広い庭の草むしりをしていますが、さすがに昨年で懲りたので今年は雑草取りもシルバー人材センターにも頼もうと思っています。

雑草が広がる実家の玄関前

セキュリティ関連では警備会社に入りました。月額8800円で、なかなか大きい出費です。主目的は盗難防止ではなくて、火災防止。空き家は埃が積もってコンセントから火花が出て火災になることが多いらしいんです。

 

コンセントを全部抜いてくれば良いとか、ブレーカーを切っておけば、とも言われますけれど、実家にはたまに行くので、今はまだ冷蔵庫を使えるようにしています。ボイラーも古いので、一度電気を切ったら、お風呂に入れなくなるのではないかという不安もあります。

実家の木の剪定をするシルバー人材センターの人

── そんな配慮もいるんですね。これから先、多くの人が直面する「遠方の親が亡くなる」という問題、どう備えたらいいでしょう。

 

サラさん:
いつかはくることだと、心の片隅に置いておくことでしょうか。

 

親御さんが元気な友達と話していると、親がいつか亡くなるとは思っていないんですよ。私も家族はずっとそこにいるものだという感覚しかありませんでした。自分の身に起きないとわからないことだけれど、いつかは起きることだとまずは思っておくことですね。

父が死んでから二度目に実家に行ったときに、吸い殻の入った缶コーヒーの空き缶が庭に転がっていた。ショックだった。既に空き家であることを、つきあいがなくとも近所は皆知っているはずだ。田舎だもの。

私が小学校5年生の時に建てた家の前に、家族3人が誇らしく立っている写真が残っている。築約44年ののち、このような終わりを迎えるとは誰も想像していない顔だ。

母はおそらくこの実家には復帰できない。当面は無人になってしまう実家の防犯と防火のために、空き家セキュリティサービスを申し込んだ。

(note「父がひとりで死んでいた」より)

家族の思い出を作って

サラさん:

そして、ぜひ家族の思い出を作ってください。親と面と向かうと改めて写真を撮ったりしないじゃないですか。だから私には最近の父と母の写真がないんですよ。

 

ふと気がついた時に、それが悲しくて。状況次第ですが、可能であれば一緒に旅行に行くとか、オンラインで話してレコーディングしておくなどでもいいと思います。

 

元気な親御さんとの思い出を作っておくことが、あとで自分を救ってくれます。この時、お父さん、お母さんはこうだったな、ということが支えになるんです。

母親が育てていた君子蘭が無人の家に咲いていた

── 相続の書類の場所を聞くことより思い出作りの方が大事だったりしますか。

 

サラさん:

もちろん、大事な書類はどこにあるのかということは必ず聞いておいた方がいいですが、周囲を見ていると、みんな「聞けない」と言いますね。いざ聞いてみても、親から「縁起が悪い」と言われて喧嘩になることもあるようです。しかし、今はコロナ禍でもありますし、「思ってもみないことが起きる時代だから、もしもの時のために教えておいてほしい」と言いやすいのではないでしょうか。

父親が鳥の水飲み場にと木にくくりつけていた空き缶が残っていた

もっとも耐えがたい気持ちは、父を孤独死させてしまったという自責の念だった。なぜあまり連絡をしなかったのか。なぜ母にばかり気を取られて痩せ細っていく父のことを気遣ってやれなかったか。

しかし、父自身が誰にも黙って死んでいくことを選んだのではないかとだんだん思えるようになってきた。カッコつけたがりの人だったから、誰の世話にもなりたくなかったんだよね。最後まで自分の力で生きると決めて覚悟もしてたんだよね。

(note「父がひとりで死んでいた」より)

ミッドライフクライシスを良いきっかけに

── 親が亡くなる世代の人はどんな心構えをしたら良いでしょうか。

 

サラさん:

長年勤めた会社を辞めて行った大学院での研究が「中年期女性のアイデンティティの再構築」だったんです。ミッドライフクライシスという言葉も最近よく聞くようになりましたが、中年期になって迷いが出たら、一回自分をゼロにして、そこから自分をどうしたいか考える良いきっかけにしてくださいとお知らせしたいですね。

 

危機に直面したら、それまでのアイデンティティが古くなったということなので、アイデンティティを考え直すチャンスだと思ってください。

 

過去の自分を捨てるわけではなく、未来に持ち越していけるスキルや身につけたものはなんだろうと、改めて時間をとって考えることをおすすめします。親亡き後も自分ひとりでもしっかりと生きていくために、新たに立てる土台をつくることを意識していただきたいです。

 

PROFILE 如月サラさん

熊本市出身。編集者、大学卒業後、出版社にて女性誌の編集者として勤務。50歳で退職し、大学院修士課程に入学。中年期女性のアイデンティティについて研究しつつ執筆活動を行う。父の孤独死の体験を書いた書籍「父がひとりで死んでいた」(日経BP)が話題となっている。

取材・文/天野佳代子 写真提供/如月サラ