年齢を重ねて白髪が生え始めたり、シミができたりするのはしかたのないことです。ただ、「見た目」を気にする人にとっては耐えがたいのかもしれません。

 

スーパーでの買い物後に妻の態度が急変した理由

40代半ばになって急に白髪が増えたんですよ。僕は仕事が接客なので、年を取ってみられるのはやはり気になった。だから市販の白髪染めでときどき染めていたんです。

 

妻は『男なんだから、白髪もダンディじゃない?気にするなんてキャラに合わない』なんて、言っていたんですよね…」

 

サトルさん(46歳・仮名)はそう言います。結婚して12年、3歳年下の妻との間には10歳のひとり娘がいます。

 

「あるとき、妻と一緒にスーパーに買い物に行ったときのことです。偶然、近所のご夫婦にも会って立ち話をしました。その後から妻が急に無口になりました」

 

妻が無口になったときは、「あまりいいことを考えていないとき」だと、サトルさんは言います。帰宅するまで、彼の問いかけにも妻は返事もしませんでした。

 

「帰ると突然、『あなた、髪の毛を染めるならきちんと染めてよ。専門店を探すから』と、スマホで白髪染め専門店を検索し始めたんです。何があったんだ?と驚きました」

 

車で10分くらいのエリアで白髪染め専門店を見つけた妻は、サトルさんに確認もせずネット予約。「絶対に行ってよね!」と睨むように見つめてきました。

 

「僕が髪を染めているのを気にしていなかったのに、そのスーパーで同世代の近所の夫たちを見て、自分の夫が急に老いたように見えたらしいです。

 

白髪の量なんて人によって違うし、そもそも妻自身が僕の白髪をポジティブに受け止めていたはずなのに。結局、他人と比べて見た目がどうかと思ってしまったんでしょうね」

 

夫が自宅で行うカラーリングが下手だからきちんと染まっていない。だから老けてみる。それなら専門店へという思考回路なんでしょう、と振り返るサトルさん。

 

「まあ、専門店ならきれいに染まるでしょうから、もちろん行きましたけど、他者と比べることで急に考えがブレる妻の心理が気になりました」

人は見た目が9割と思い込んでいるのか…

妻自身も年齢を気にしているということなのでしょう。それ以降、サトルさんは妻の話題が“見た目”に偏っていることに気づき始めました。

 

「先日も、子どもの同級生の母親にばったり会ったら、『あの人、普段着がいつも同じなの』『いくら近所への買い物だって化粧くらいすればいいのに』と外見をとやかく言っていましたね」

 

それだけではありません。テレビを観ながら「この女優も老けたわね」とバッサリ。女優が老けたなら自分も老けたという発想はないのだろうか、とサトルさんは笑いそうになってしまったそうです。

 

「すると妻は『何よ』って。それで、『年をとったら老けるのは当たり前。それを気にして生きるのか、そんなことより今を充実させて生きるのか。その選択が今後の人生を決めるんじゃないの』と言いましたよ」

 

見た目に左右されたり人を判断しないで、と伝えたかったんですが…。妻は『見た目は大事よ。あなただって私が老けない努力をしているから、奥さんきれいですねって言われるでしょ』、と。

 

「たしかに妻は40代でも肌がきれいで若く見える。だけどそれを恩着せがましく僕に言うのはおかしい。もう見た目がどうのって、芸能人じゃないしと苦笑したら、妻は不機嫌に」

 

妻はほとんど活字を読まないそう。読まなくてもいいのですが、「自分で考える」ことがあまり得意ではない様子。テレビからの情報を一方的に受け売りする面もあるようです。

 

「だからどう思うの?と聞いても、はっきりした答えが返ってこない。僕はもうちょっと話し合ってみたいと思うけど、『だってテレビでやってたもん』と言うだけ。

 

自分の内面に自信がないから見た目にこだわるのかなと感じますが、そんなことを言ったら怒られそうで何も言えませんよ」

 

妻の感情豊かで愛情深いところが好きなので、決してバカにしているわけではないとサトルさんは言います。ただ、見た目偏重の考え方が娘に悪影響を及ぼさないか?ザワザワし始めているそうです。

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。