コロナ禍によって、子ども達がオンラインで学習する機会や、人とのやりとりが増えています。臨床心理士で長年、子どもの発達相談に乗ってきた帆足暁子先生は「オンライン障害が起きる可能性がある」とも警鐘を鳴らします。一体どういうことでしょう。
人とつながる実感がない
── オンラインでのやり取りや、小学校でもタブレットを使った授業が行われています。
帆足先生:
はい。コロナ禍で、祖父母や友だちにオンラインで会う機会が増えてきました。でも、なぜか疲れたり、あまり心がつながった実感がないという方が多いです。
そもそも、カメラはパソコン画面の上にありますね。相手がうつっている画面を見るとカメラ目線とはズレてしまいます。ではカメラを見てみると、今度は画面上の相手が見えなくなってしまう。
「目は心の窓」と言われていますが、お互いの目と目を合わせることがオンラインではできないんです。
目と目が合うことで、気持ちはつながります。だから、画面上の目を見て話しますが、相手も画面上の目を見ますから、お互い目を伏せている状態で画面にうつり、目を見ていないことになってしまうんです。
── 確かにオンラインでは目は合わせられないですね。
帆足先生:
はい。そのため、心から伝わっていない感覚が生まれてしまいます。授業内容など情報の伝達はオンラインでもできると思いますが、感情の交流はできないと思っています。
また、オンラインだけで友達を作っていくことは難しいですよね。オンラインで繋がっていくなかで孤独感を感じることもあると思います。オンラインだと休み時間に友達とおしゃべりして、遊んで、仲良くなっていくとはならないですよね。弊害が大きいと感じています。
── 目を合わせない弊害もあるのでしょうか。
帆足先生:
目と目が合うことで、人間は相手の気持ちを感じ取って来ました。それが出来ないとしたら、子どもは人とつながる実感や、つながることでの安心感を経験できないことになってしまいます。
コロナ禍以前から、すでに人とつながることが苦手な子どもたちが増えてきていました。相手の気持ちが分からないことから生じるトラブルや、「勝ちたい、いちばんじゃなきゃ嫌だ、思い通りになってほしい」など、自分の気持ち優先にしてしまう子です。
そんな風に自分の気持ち優先にしてしまう子たちにとって相手とつながりにくいオンラインはさらに状況をこじらせてしまいます。
五感を使って会話する
── では、オンラインで人とつながりを感じられるよう関わるにはどうしたら良いのでしょうか。
帆足先生:
目を合わせてつながる「心の窓」が使えないわけですから、相手が見る画面で心がつながるよう、安全な場所ではマスクは外して、出来るだけ表情を豊かに、話し声にも抑揚をつけて会話することが大切です。
そして、視覚と聴覚を最大限使って、気持ちを伝えることですね。実は、会話に大切なことは、五感を使って人と関わることなのです。
言葉も分からない赤ちゃんは、五感を使って親や周囲の心をキャッチしていきます。母子相互作用と言われる、出生後からの優しい言葉かけとケアを通して、相手が信頼できる人か、そうでないかを判断しているのです。
もちろん、可能な範囲では直接会い、抱きしめてもらい、声を聴き、相手をよく見て、相手の匂いを感じ、しっかりその人を信頼できる人として五感で記憶する機会を持てるようにしましょう。大好きな人とのスキンシップは、愛情ホルモン、社会性ホルモンと言われるオキシトシンホルモンが、お互いに分泌されることも分かっています。
それによって、つながっている安心感をも与えてくれます。家庭では、親がたくさん愛情を込めてハグすることで、親とつながっていることの安心感を経験出来ます。人と関わるときに、安心感を求める基準がそこで作られます。
そのうえで、オンライン画面を通したやり取りでは、メリハリのあるうなづき、あいづちなどをして、お互い視覚・聴覚をいかして相手の気持ちをキャッチします。
この2つの方法で、課題点を最小限にすることができると思っています。オンラインでのやり取りと対面での関わりを上手に使うことで、相手とつながれない「オンライン障害」を克服することが出来ると思います。
PROFILE 帆足暁子さん
取材・文/天野佳代子 イラスト/石川さえ子