2021年に発表されたWorld Giving Index(世界人助け指数)の報告によると、日本の「人助け指数」は世界でダントツの最下位。

 

しかしながら、コロナ禍で寄付が増加しているデータもある、と話すのは『寄付白書』を発行する日本ファンドレイジング協会のマネージング・ディレクターの宮下真美さん。

 

寄付の基本的な知識とあわせて、コロナ禍における寄付の変化を伺いました。

寄付のお金の使われ方が違う「義援金」と「支援金」

「そもそも寄付にはモノによる寄付とお金による寄付があります。

 

お金の寄付にも『義援金』『支援金』などの種類がありますが、その違いは“使われ方”。

 

義援金とは、災害により生命・財産に大きな被害を受けた方々に対し、迅速かつ公平に配分される寄付金のこと。

 

寄付した全額が被災者支援に使われますが、義援金配分委員会により、各機関で受付けた義援金をとりまとめ、配分基準を作成して配分されるため、すぐに届けるのは難しいという特徴があります。

一方、支援金は、NPO団体やクラウドファンディングを通じて、必要な場所へお金を届けられる寄付金です。プロジェクト単位で支援できるので、スピーディーに寄付金を届けることができます。

 

義援金との違いは、被災地での救命や復旧作業など、各機関やNPO、ボランティア団体の判断で、被災地からのニーズに応じて、柔軟に活用される点でしょうか。

 

支援金が実際にどのように使われるかは、各団体の収支報告をちゃんとみる必要があります」

 

活動費の中には、CM広告なども含まれると宮下さん。寄付金の使い道として疑問に思いがちなプロモーションですが、実は大切な活動の一部なのだとか。

 

「たとえば『国境なき医師団』さんは、紛争や自然災害、貧困などにより危機に直面する人びとの現状を伝えるという意義をもって、PR活動を行っています」

日本とアメリカで30倍も違う寄付金額

最新の『寄付白書』によると、日米英3カ国の個人寄付総額は日本が1兆2126億円に対し、アメリカが34兆5948億円と30倍!

 

「人助け指数」が最下位の日本と寄付大国であるアメリカとの違いはどこにあるのでしょうか?

(画像提供/日本ファンドレイジング協会)

 

「まず、大きく違うのは宗教観。神との約束によって寄付を行う考え方やノブレス・オブリージュのような価値観が根づいています。

 

また、学校や教会、病院なども非営利組織で運営されているため、住人からの寄付は欠かせません。運営できなくなってしまうと、住んでいる人たちにダイレクトに影響が出てしまいます」

 

共同体という意識が強く、寄付に限らず、人を助ける、助けられた経験をしている人も多いことも関係しています。

 

ところが、日本でも昔から寄付の文化はあったと宮下さんは続けます。

 

「インフラを整えるために、商人たちが寄付を募って、橋を建てたりしているんです。たとえば、大阪の『町橋』は江戸時代、寄付によってできたものなんですよ。

 

しかし明治時代以降、中央集権が公共施設を整備するのが一般的になり、福祉は国がやること、税金でなんとかしよう、そんな意識が強まった。

 

そういう背景もあって、日本で寄付文化が浸透しにくい一因になっているかもしれませんね」

コロナ禍で若者の寄付が増えた!?

寄付文化が根付いていない日本でも、2011年から寄付市場は拡大。

 

「きっかけとなっているのは、寄付元年と呼ばれる2011年の東日本大震災。実は、日本の寄付市場はステップアップしていて、阪神大震災でボランティア文化が根づき、東日本大震災で寄付文化が根づきました。

 

東日本大震災では、約7割の方が寄付を経験したデータも出ています」

(画像提供/日本ファンドレイジング協会)

 

そして、注目すべきは、2020年以降の新型コロナウイルスの影響。今まで年齢層が高かった寄付ですが、若者にも広がったと宮下さんはいいます。

 

「これは、一律10万円が配布された『給付金』がきっかけとなっています。

 

当時、『自分は困っていないから受け取らない』という声もたくさんあり、それなら、ちゃんと受け取って、医療機関・教育や福祉・文化・雇用や生活困窮者の4つから助けたい人を選んで寄付しよう! と、プロジェクトが発足しました。

 

ヤフー株式会社さんらいくつかの団体がパートナーシップを組んで立ち上げた『コロナ寄付プロジェクト』は、多くの方が賛同し、現在の支援額は4億円を突破。しかも20代の方も数多く参加されているんです。

 

このようなプロジェクトを通して、若者に寄付文化が広がっていくことは大変喜ばしいことだと受け止めています」

これからは寄付先を「選ぶ力」が求められる

現在、日本国内にはNPO非営利組織がおよそ5万団体あると宮下さん。コンビニと同じくらいある団体のなかから寄付先を選ぶ際の目安はあるのでしょうか。

 

「まずはしっかりと寄付先を選ぶことが大切です。

 

ミシュランの三つ星評価のように、日本では、信頼性の高いNPO法人を評価するグッドガバナンス認証があります。第三者評価を受けて、信頼性の高いNPO法人を公表していますのでひとつの目安になるかもしれません。

 

認証を受けた団体は、寄付金の用途を公表し、信頼性・透明性の向上に努めていますので、気になる団体があれば、ホームページの報告書を確認してみるのもいいですね。

 

あとは、社会の何を良くしたいのか、子どもの教育なのか、医療なのか、スポーツ振興なのか、文化やアートの保護なのか…自分の価値観にあった寄付先を見つけることも大切です。

お子さんたちと一緒に、『あのサッカー選手が寄付していたからやってみよう』と団体を知ることもあると思います。

 

興味関心のあるところから入っていく。楽しみながら寄付先を選ぶことで、興味・関心が高まる社会になっていくといいですよね」

 

PROFILE 宮下真美さん

日本ファンドレイジング協会・マネージング・ディレクター。大学卒業後、バイオ系べンチャー企業でマーケティング業務に従事し、2011年より日本ファンドレイジング協会へ。日本社会におけるファンドレイジングの普及啓発を推進している。

取材・文/つるたちかこ