どんなに対策を講じても、いつ陽性になっても不思議ではない現在のコロナ禍。陽性者になって初めて、配偶者の優しさを知るケースもあるようです。
コロナの疑いがあるなか、帰宅すると妻からのキツイひと言
「同じ部署の後輩が陽性となり、僕自身も濃厚接触者の“疑い”となりました。帰宅前に妻に連絡して帰ったんですが…」
そう話してくれたのは、ヒロタカさん(39歳・仮名=以下同)です。帰ると妻は「あなたがきちんと対策していないからでしょ」と怒られたそう。
「対策していたって、うつるときはうつるだろ、とついカッとして大げんかに。その日から夫婦の寝室から隔離されました。
翌日、発熱したため近所で調べてもらえる医者に連絡し、検査した結果は陽性。保健所からは連絡も滞り、とりあえず自宅療養するしかない状態でした」
妻が解熱剤を買っておいてくれたためそれを服用して1日でおさまりましたが、喉の痛みと頭痛があったといいます。
「トイレに行くのも妻にLINEをしてから。トイレから寝室に戻ると、僕が通ったところは換気し、触れたところは消毒していたようです。妻も8歳と6歳の子どもたちも家の中でもマスク着用だったみたいです」
同時期、上の子の学校は学級閉鎖を繰り返し、下の子の保育園は閉園状態。妻は在宅ワークをしながら、とにかく子どもたちにうつらないようにするのが大変だったそうです。
「不自由だけど今だけ我慢してと、ふたりを子ども部屋に隔離していましたね。僕も隔離、子どもたちも隔離。妻はリビングダイニングで仕事をしながら家じゅうをコントロールしていたんです」
隔離中は熱々の料理に、子どもからのメッセージも
食事は妻が毎回、部屋の前に置いてくれました。ヒロタカさんは誰もいなくなってからドアを少しだけ開けて、トレイに置かれた食事を部屋に引き込んでいました。
「2日目くらいかな、ふと気づいたんです。ご飯もお味噌汁もおかずも熱々のものが置かれていることに。喉の痛みに試してみてと、マヌカハニーの瓶が置かれていたことも。
飲み物は水筒にたっぷり。ひとりで部屋に隔離されて落ち込んでいましたが、妻はひとりで大変な想いをしていることが日に日にわかっていきました」
ふたりとも忙しい日々を送るなかで、ゆっくり語り合うこともありませんでした。ヒロタカさんがろくに家事をしないと、妻に一方的に責められて「オレに、どうしろっていうんだ」と声を荒げたことも。
「それでもいざというとき、ここまで介抱してくれるんだ、とうれしくなりましたね」
3日目以降、体はだいぶ楽になっていきました。食事のときは子どもたちからの「パパ、早くよくなってね」「早く遊ぼうね」のメッセージカードがありました。
妻からはLINEで「いつまでもひとりで楽してんじゃないぞ」と笑顔の絵文字も。
寝室にはテレビもパソコンもありますが、夜は妻のスマホを使って子どもたちと他愛ない話をするのが楽しみでした。
「考えたら、子どもたちとゆっくり話す時間もなかったなあ、と。その後、妻に『本当にありがとう、今後はもっと家庭に協力する』とメッセージを送りました。
すると、『ガラにもないこと言うな』と、こちらをパンチするような絵文字が返ってきました。こういうとき深刻にならないのが妻のいいところだなとウルッときました」
規程の隔離期間を経て、ヒロタカさんはようやく無事に職場復帰しました。
「妻は無神経なくらい言いたいことを言うタイプだから、ついケンカになりがちでした。だけど今回のことで、こまやかで情に厚いとよくわかった。職場では人望が厚いと聞いていましたが、実際、そうなんでしょうね」
通常の生活に戻って、またもケンカの多い日常ですが、それでも「以前とは少し違う。お互いの思いやりが伝わってくる」と、ヒロタカさんは少し照れたように言いました。