「はたから見ると絵に描いたような理想的な家族」と、妹が信じて疑わなかった姉一家。ところがその姉一家は、「仮面家族」だったといいます。仮面家族の崩壊はあっという間でした。 

 

大手企業に入るも挫折し、結婚に逃げた姉

ハルカさん(41歳・仮名=以下同)は、姉のアヤノさんとは正反対の性格で、「ほとんど自分のしたいことしかしてこなかった」そう。有名私立大学に入った姉、専門学校でやりたい道を追求した妹。

 

3歳年上の姉は、昔から私に対して妙なライバル心を持っていました。私は勉強があまりできなかったけど、スポーツ好きで体育祭だけヒロインになるタイプ。

 

姉は天才肌ではなく秀才。地道に勉強して校内で5本の指に入る感じ。本当は勉強もあまり好きじゃなかったのかもしれません。でも、生真面目だから努力するのが当たり前だと思っていたんでしょうね」

 

ハルカさんの姉は有名企業に入社するも、まじめな性格が災いしたのか、人間関係がうまくいかずに4年ほどで退職。そのころつきあっている人に、姉と結婚するよう仕向けたといいます。

 

義兄となった人は姉より7歳年上。「ちょっと偉そうで感じが悪かった」ものの、姉は超有名企業勤務の夫が自慢だった様子。ふたりの子をもうけ、夫の実家所有のマンションで悠々と暮らしていました。

 

「ときどき実家で顔を合わせると、『ハルカも早く結婚したほうがいいよ。結婚っていいものよ』とやたらと言うんですよね。私は30歳ころから今に至るまでパートナーと一緒に暮らしていますが、結婚の手続きをとる気になれない。

 

『専業主婦ほど幸せな立場はないと思う』と姉はよく言っていましたが、そのわりにいつも冴えない表情をしていたのが気にはなっていました」

「暇なのにおかずはこれだけ?」と夫からパワハラされる

そんな姉は子どもたちのこともあまり話そうとしなかったそうです。ただ、上の子は中学から私立へ進学した、とハルカさんは母から聞きました。

 

「ところが3年ほど前、長女が夜の街で補導された、と。中学生なのにどうして夜の街にいたのかと思ったら、家にいたくないと警察で言ったそうです。母に呼ばれて実家に行ってみると、姉は泣くばかりでした」

 

話を聞くと、その数年前から夫はあまり家に帰ってこなかったとのこと。他に女性がいたようです。そんななか、姉は必死で上の子に私立中学を受験させ、下の子も塾に通わせていたのでした。

 

「義兄も悪い人ではないんでしょうけど、姉によると『専業主婦はいいね、時間があって』『暇なのにおかず、これだけなの?』などとモラハラされていたそうです。

 

でも、近所からもいい家庭と見られているから愚痴も弱音も吐けなかった、と。姉自身も、うちは素敵な家族だと言いふらしていましたけど、内情は違ったんですね。

 

私は姉の見栄が義兄を追い詰めたところもあるんじゃないかと思っています。厳しい言い方だけど」

 

いい家庭をつくりたい、つくらなければならないというプレッシャーで、自分で自分を追い込んでしまったのかもしれません。

 

「楽しく生きても苦しく生きても一生は一生。私は楽しく生きていきたい。姉はその後、離婚して、今は子どもたちと実家で暮らしています。

 

養育費も元夫から払ってもらっているようですが、離婚した自分が許せなくて苦しんでいる。母もそんな姉への接し方がわからない様子。

 

私はなるべく姪たちを外に連れ出して話相手をつとめているんです。あの姉に育てられたら子どもたちの将来が暗そうだから」

 

理想を掲げるのは悪いことではないけれど、現実を踏まえて行動することも大事。理想だけを追い求めていたら、足元にある幸せに気づけなくなってしまうから。姉はそれがわかっていないと、ハルカさんは苦い表情を浮かべました。

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。