仕事や育児で頑張りすぎて疲れた人が突然、不思議な世界に入り込み…。最後には元気を取り戻し、大切なことに気づく、そんな漫画がSNS中心に話題を呼んでいます。

 

著者は、イラストレーターのあきばさやかさん。3歳と0歳の2児の母でもあるあきばさんがこの漫画を描いたきっかけ、制作の裏側をお聞きしました。

念願だった創作漫画で1作目からいきなり話題に

── あきばさんがイラストレーターになった経緯を教えていただけますか?

 

あきばさん:

社会人になりたてのころは、地元・仙台市の広告会社で企画営業をしていました。イラストとはまったく関係ない仕事だったんです。

 

仕事ではイラストやデザインを発注する側だったのですが、昔から絵を描くのが好きで、ずっとイラストを描く仕事をしたいと思っていました。

 

その思いが徐々に強くなっていって、5年ほど勤務した後、思い立ってイラストレーターに転身しました。

あきばさん漫画1
漫画「お人好しの会社員が不思議な世界に迷い込む話」(『スパあんこうの胃袋』第1話)の冒頭

── 漫画「お人好しの会社員が不思議な世界に迷い込む話」や「育児に疲れたママが不思議な世界へ招待される話」などがたくさんの人に読まれていますよね。漫画を描いたきっかけは何だったのでしょうか。

 

あきばさん:

ずっといつかは創作漫画を描きたいと思っていましたが、昨年にようやく描き上げることができました。

 

思いがけず第1話からものすごく反響をいただいて。びっくりしましたね。

あきばさん漫画2
漫画「育児に疲れたママが不思議な世界へ招待される話」(『スパあんこうの胃袋』第2話)の冒頭

── 第1話、第2話ともに「note」で2000を超えるハートがついていますね。ストーリーはどんなふうに生まれたんですか?

 

あきばさん:

私、おっちょこちょいなんです。いつもリュック全開でまわりの人に「開いていますよ」と教えてもらうことも多いです。

 

また、育児中はたくさん人の善意に触れます。ベビーカーを押してエレベーターに乗るときにドアの開け閉めを手伝ってもらったり、落ちたものを拾ってもらったり。

 

そんな優しい声をかけてくれた人たちが報われる世界があるといいなあと思って描いていきました。

 

自分の経験や、仕事や育児に頑張る友人の話、日々過ごしながら気づいたことをスマホにメモしていたものがネタになっています。

 

特に作中に出てくる「育児中できないこと全部できるルーム」は、今の自分が一番行きたい世界をそのまま描きました。

あきばさん漫画3

頑張っているけれど報われない人に届けたかった

── 第2話は、育児中の女性が主人公ですが、不思議な魚が彼女にささやいた「いつかあなたの時間は戻ってきます」「人生の主役は自分です」など、子どもたちがまだ小さくて必死に育児をしていた自分にかけてあげたい言葉ばかりでした。心に刺さるんです。

 

あきばさん:

バーのマスターのシーラカンスですね。

 

育児をしていると、自分が主役の人生は終わって、子どもの人生の「黒子」になったように感じることがありますよね。でもそんなことはなくて、ずっと人生の主役は自分だよ!と、そういうメッセージが込められたらいいなと思いました。

 

私も第一子出産後は、自分が自分でなくなるような感覚があったので…。

 

育児って子どもと2人きりで家のなかで過ごす時間が長くて、思いつめてしまう人も多いのではないかなと思います。

 

また、コロナで在宅が増えたり、人との関わりが難しいなかで、頑張っているけれどなかなか報われない人に届くといいなとも思って描いています。

あきばさん漫画4

── ヘトヘトになった女性が突然あらわれた魚に飲み込まれて、夢のような世界へ飛び込むんですよね。

 

あきばさん:

チョウチンアンコウですね。

 

今回登場人物に深海魚を選んだのは3歳の息子の影響なんです。

 

息子は図鑑が大好きで、ずっと深海魚の図鑑やDVDを一緒に見ていたので、私もすっかりハマってしまいました。漫画に出てくる重要なキャラクターを描こうと考えたときに浮かんだのが深海魚で、息子の図鑑を参考に書きました。

あきばさん漫画5

誰も傷つけない漫画を描きたい

── 漫画を描くときに気をつけていることや大切にしていることはありますか?

 

あきばさん:

すごく難しいのですが、「誰も傷つけたくない」という思いがあります。漫画を読んで、いやな気持ちにはなってほしくない。だから、できる限り誰も攻撃しない漫画を描きたくて。

 

今、コロナ禍でたくさんの人が気を張って頑張っている状況だと思うのですが、少しでも読者の方に読んでホッとしてもらえるといいなと思いながら描いています。

 

── 漫画を公開していろいろ反響があったと思うのですが、どう思いましたか? 

 

あきばさん:

思っていた以上に共感されたことにまず驚きました。また、私と同じような経験や思いをしているパパとママがたくさんいるんだなあと、すごく励まされましたね。

 

ちなみに、「睡眠時間30分でたっぷり8時間分寝ることになるベッドが私もほしい」という感想がいちばん多くて、「だよね!」と思いました(笑)。

 

PROFILE あきばさやかさん

宮城県生まれ、東京在住。仙台の広告会社で5年間OLを経験したのち、イラストレーターに。ライブドア公式ブログ「あきばさやかの人生ケアレスミス」では、日常のひとコマを漫画で綴っている。著書に『おしゃれなママっていわれたい!』(マイナビ出版)、『マンガでわかる Excel』(KADOKAWA)などがある。

取材・文/高梨真紀