中学受験のシーズンです。子育ての専門家である東京成徳大学教授の田村節子先生は、子どもがみずから受験したくてしている場合は良いが、親が心理学でいう「未完の行為」の解消のために、子どもを受験させていた場合、事態はこじれると危惧します。

親の無念を子供に託すのは要注意

話をする田村先生

「親御さんが有名大学、職業などを目指していて達成できなかった経験があると、自分の子どもにその夢を託してしまうんです。それが未完の行為です」

 

未完の行為の問題点は、子どももやりたいという気持ちで一致している場合でなければ、「させられ体験」になってしまう点にあるそう。

 

「させられ体験」の場合、上手くいっても別の選択肢を選んでいたらどうなったかを気にしたり、上手くいかなかった場合は、結果を親のせいにして親との関係が悪化したりすることがあると言います。

 

受験は始まっていますが、今一度「受験をしようとしたきっかけはなんなのか」「子どもの意見を聞いたか」など、次の高校受験も見据えて、振り返ってほしいと話します。

 

また、もし子どもが既に親から何かをさせられて失敗したと感じていて、心が親から離れてしまっている場合は、「心の底から親が子どもの存在をありのまま認める」ことが必要です。

特に中学以降は自分で意思決定を

中学から先は、子どもの自立を促進させるためにも、自分の意思で決めさせたほうがいいと指摘します。

 

「よくあるケースですが、留学に特化して英語の授業が素晴らしいA学校があったとします。子どもはそこに行きたいと思っている。一方で親は、英語以外の授業も総合的に素晴らしいと思うB学校に行かせたい。

 

子どもは将来留学したいからA学校に行きたいのに、親が説得してB学校に行かせると、上手くいかなかった場合に、それは親の責任だと感じます。親子関係がこじれた場合には反抗期でもあり『てめえが行けといったんだろ』と口調さえ乱暴になりがちです」

子どもに親の意思を押しつけるのは「賭け」

子どもに親の意思を押しつけることは大きな「賭け」だと言います。

 

子どもも納得して、選択に満足すれば、子どもの人生が順調に進んでいくメリットがありますが、一方で「親に決められた」と禍根を残すデメリットもあります。子どもの人生は親とは別のものですから、子どもが選択することが大事なわけです。

 

ただ、そこで親の葛藤が起こります。親戚など周りの教育熱が高かったりすると、「そんなとこ行くの」と言われることもある。そこでどういう立ち位置で、子どもを応援できるかも試されます。

 

「親が冷静に選択肢のメリット、デメリットを伝えることはあってもいいと思いますが、『絶対そっちにいったほうがいい。こうじゃないとだめだ』と頭ごなしに言うことが良くないんですね。子どもの思いや願いをよく聞いて子どもの気持ちをいったん受け止めてあげる過程が必要です。そうやって子どもとの折り合いをつけていけるといいですね」と田村先生。

子どもが本音を話すタイミングで必要な心構え

子どもが結果を引き受けられず「受験したくなかった」と暴れることがありますが、内に秘めるよりもある程度発散したほうがいいと、田村先生は言います。

 

「外に思いを出せないと内にこもってしまい、自分ひとりでぐるぐると考えがちです。自暴自棄になったり、暴力を振るったりすることもあります。あとは発熱など体に症状が出てしまうこともありえます」

 

外に向かう行動はわかってもらいたい思いのあわられでもあるとのこと。子どもが話をできることが重要で、子どもが話し出せるように、子どもの存在を認めるような態度を取るといいと言います。

 

「あなたが居てくれるだけでいい。自由に選択して良いよ」と子どもの考えを認めてあげるような声かけが大切になってくるそう。

 

さらに、子どもが話し出したときも注意が必要です。

 

親は「それはわかるけど、あなただってね」などと話の途中で言ってしまいがちですが、それでは結局「わかってない」と子どもは思ってしまい、物別れになります。ただ「うん、その気持ちわかったよ」と言うだけでいいと言います。

どんな結果も肯定を

もし、親の希望で子どもが納得しないまま受験し、それで落ちたとしたら…それはそれで良かったのかもしれないとも田村先生は言います。

 

長い目で見て、何が子どもにいいか悪いかなんて、結論は出せません。

 

たとえ受験に落ちたとしても、親も前向きに捉えられると、その気持ちが表情や声など、非言語のコミュニケーションに現れてきます。

 

中学受験の希望校にもし落ちた場合も、「行ったところでいい出会いがあるから、楽しみだね」とか、「どんな友達がいるか楽しみだね」など、結果的に行くことになった学校を肯定してあげることが大切だと話してくれました。

 

PROFILE 田村節子さん

東京成徳大学大学院教授・博士(心理学)。長年、小中学校のスクールカウンセラーを務める。著書に『子どもに「クソババァ」と言われたら-思春期の子育て羅針盤-』など。

取材・文/天野佳代子 撮影/木村彩