中学受験のシーズンです。合格する子もいれば、落ちる子も。子供は追い詰められると心の余裕がなくなり、「受験がすべて」「勉強しかない」という思考にはまると苦しんでいきます。子育ての専門家である東京成徳大学教授の田村節子先生は、成績がガクッと落ちてきたときなどに不安な気持ちを聞いてあげると、こうした「心理的視野狭窄」を防げると言います。

思考が負のスパイラルに陥る「心理的視野狭窄」に注意

子供が勉強や受験が上手くいかなくなったとき、自暴自棄にならないか心配されることがあります。田村先生は「ショックだった気持ちを聞いてあげる」ことが何より大切だと言います。

田村先生

子供の話を静かにそっと聞く。「そうか、そう思ったんだね」と子供の言った言葉を繰り返す。


決して、そこで「もっと勉強すれば良かったんだよ」とか「そうだよ」などと説教をはじめてはいけません。弱っているときに、正しい言葉ほど言われると辛いものです。

 

そうすると「成績が下がってきた」「受験に落ちた」「もうだめだ」と極端に考えはじめて、「自分は愛想を尽かされたんだ」という狭い思考のスパイラルに陥ってしまうと、田村先生は危惧します。

 

これを「心理的視野狭窄」というそうですが、思考がぐるぐる煮詰まった状態です。

 

しかし反対に、子供の話を静かに、真剣に聞いてあげると『あれ、なんでこんなこと考えていたんだろう』と子供の頭に考える空間が生まれます。

 

「子供が悩んでいるサインをキャッチして、話を聞いてあげることが大切」だと田村先生は言います。

 

子供が極端な言動で自分の存在を誇示しなくてもいいように「あなたがいるだけで明るくなる」など、存在を認めることが必要です。

「ただし、思っているだけでは親の気持ちは伝わりません。勉強やあなたの受験結果がどうであれ、あなたのことを大事に思っているよというメッセージを言葉に出して伝えること。すると、子供は次に挑戦するモチベーションを上げていきます」

辛い体験を家族の絆を深める機会に

受験や入社試験など、長い人生で多くの出来事があるなかで、中学受験の経験はいつかは思い出のひとつとなっていきます。

 

どんな結果にせよ、「自分が否定されず、家族も応援してくれた」と子供が受け取ってくれれば、それは家族の絆が深まる体験に繋がっていくそうです。

 

PROFILE 田村節子さん

東京成徳大学大学院教授・博士(心理学)。長年、小中学校のスクールカウンセラーを務める。著書に『子どもに「クソババァ」と言われたら-思春期の子育て羅針盤-』など。

取材・文/天野佳代子 撮影/木村彩