思春期のお子さんは、親が話しかけてもスマホやゲームに夢中になって「うっせえわ」と言って話を聞いてくれないこともあると言います。話し方教室を運営し、著書『話すより10倍ラク!新 聞く会話術』もある西任暁子先生に解決策を聞きました。
子供は大人の真似をする
── 知人から子供が話を聞いてくれないという相談を受けることがあります。
西任さん:
その答えは簡単ではないと思います。家族など近い関係の人ほど、そこに至るまでのさまざまな歴史が積み重ねられているからです。いろんなことがあっての今ですものね。その上でまず思うのは、「相手は鏡」という視点で、お母さん自身が子供の話をしっかり聞いてあげられているかを見つめてみるのはどうでしょうか。
子供は大人の真似をしながら、コミュニケーションを学んでいきます。子供だけではありません。部下も同じですね。たとえば私自身、アシスタントのコミュニケーションを見て、私が同じような接し方をしているのだろうと彼女から自分の話し方に気づかせてもらっています。
── 知らないうちに子供は親のコミュニケーションを真似ているんですね。
西任さん:
そうですね。親同士の接し方を真似していることもあります。お父さんの話を聞いていないお母さんの真似をするというわけです。もちろんその逆もあります。
お母さんが子供の話をしっかり聞いている場合、子供も、しっかり話を聞くことが多いように思います。子供が話を聞いてくれないときは、自分の聞き方を振り返るきっかけにできるといいですね。
── 反抗期など聞いてくれない時期もあるかもしれませんが…。
西任さん:
そうですね。反抗期という場合もあります。子供は自分が世界の中心なんだと思いながら、大人になっていきます。人間の子供は、誰かにお世話をしてもらわなければ、生きていけないからです。そのため、子供は周囲が何かをしてくれるのが当たり前だと感じるようになります。ところが、年齢を重ねるうちに「どうやら世界は自分を中心に回っていないようだ」と気づくのですね。
だから、子供の自我が育っていく中で、気持ちのバランスが崩れたり、フラストレーションが出てきたりするのは自然なことだと思います。それが親への反抗となり、話を聞かないという形で表出する場合もあるでしょう。
そんな時期にある子供が誰ともまったく話さないかというと、そういうわけではないだろうと思います。親には言いにくいことでも、ちょっと距離がある親戚や友達には話せる場合もあります。心配な場合は、そのような方に代わりに聞いてもらうのも良いかもしれません。
聞いているつもりで聞いていない
── 親がまずちゃんと聞く、ということが大事なのですね。
西任さん:
私たちは、相手の話を聞いているつもりでいます。耳から音は入ってきますからね。しかし、音として入ってきた情報を、心の中でどのように受け取っているでしょうか。自分が話した言葉を、相手がどのように理解したり、していなかったりするかは、聞いてみなければわかりません。
例えば、部下に「これ、わかった?」と聞いて、「わかりました」と言われても、何がどうわかったのか確認することができませんね。もしかしたら、自分の意図とは全く別の理解をされているかもしれません。
理解してもらえたか確認したいときは、「今の話をどういう風に受け止めてくれたのか聞かせてもらえませんか?」と尋ねて、相手がわかったことを言葉にしてもらうといいでしょう。
「今の話をそんなふうに聞いたのか」と相手の理解を知ると、誤解を解いたり、足りないところを補って話を続けることができますね。
子供に対しても同じことが言えます。子供が話をしてくれたときに「ふーん、そうなんだ」と相槌を打つだけではなく、「自分にはこんなふうに聞こえたよ、こういうことなのかな」と確認すると、子供は「ああ、ちゃんと聞いてくれたんだな」と感じられると思います。
テクニックとしては、相手が言った言葉を繰り返すと良いなど様々な手法がありますが、そのベースに子供を信頼する気持ちを持つことが大切です。子供を大人と比べて「足りない存在」と見るのではなく、ひとりの人間として尊重することが信頼ということだろうと思います。
親が自分のことを信じてくれていたら、たとえ辛いことがあったとしても、子供が大きく道を踏み外すことはないと私は思っています。自分を信じてくれる人が、ひとりでもいることは、それくらい大きな力を与えてくれると思うからです。
それは、決して、子供の心配をしてはいけないということではありません。心配しながら見守る感じです。また、子供を信じてあげられないときは、お母さん、またはお父さんが、自分を信じられていないのかもしれません。相手はいつも鏡になって、自分のことを教えてくれています。
PROFILE 西任暁子
取材・文/天野佳代子 写真提供/ニシトアキコ学校事務局