「私はこう思う」「いや違う!」。人と意見がぶつかり、口論になってしまうことはないでしょうか。ケンカにならなくても、お互い内面で「あの人は何を言っているのだろう」と分かり合えないまま終わるのは、寂しいことですよね。話し方教室などで活躍し、著書『話すより10倍ラク!新 聞く会話術』も好評な西任暁子さんに、相手と異なる意見の伝え方を教えていただきました。

実は求めているものは同じ

── 相手と意見がぶつかり、分かり合えず、悲しい思いをしたことがあります。どんな会話の仕方をしたら解決できるのでしょうか。

 

西任さん:

そういうお悩みはありますよね。でも、実は、相手と違う意見だと思っていたら、同じだったと言うことが多いんです。

 

ある会社の役員の方々に、新入社員採用時の面接研修をさせてもらったときのことをお話しましょう。

 

Aさんは、「協調性がある人を新入社員にほしい」と言い、Bさんは「新しいアイデアをどんどん出してくれるような独創的な人が良い」と主張して、議論になっていました。

 

そこで、仲介役として、「お話を遮ってすみません。ちょっと確認したいのですが、Aさんは協調性があり、お互いを尊重しながらチームとして働ける人材が欲しいと思っているんですよね」とたずねると、「そうです」と言います。
Bさんには「独創的な面を持っている人が欲しいんですよね。その独創性をカタチにするには、協調性も必要でしょうか」と聞くと「もちろんです」と言います。

 

そこで「何もぶつかってないようですね」と二人に伝えると、二人ともぽかんとされていました。

 

独創性と協調性という言葉から、二人はお互いの考えがぶつかりあっていると思っていたため対立していました。ところが、言葉のイメージを超えて、相手が本当に伝えたいことを理解しようと話を深めていくと、求めているものは一緒だったとわかることもよくあります。

 

そこで、意見が違うと感じられる場合、共有できる部分はないだろうかと「同じ」に意識を向けていけるといいですね。

別の例をあげましょう。銃の所持に反対という人と、銃の所持に賛成という人は真逆に見えますね。けれど、両者が共に求めているのは、「心穏やかに安全に、毎日を過ごせること」ではないしょうか。

 

「銃を持つこと」「持たないこと」と手段のレベルでは主張が異なりますが、深い部分で求めているものは同じなんですね。

 

意見が違う人と話すときに、つい、自分の意見の正しさを主張したくなりますが、それはどこにも辿り着かない結果につながる可能性が高いでしょう。

相手に勝とうとしない

── 自分の正しさを主張して言いまかそうとしないことが大切なんですね。

 

西任さん:

そうですね。コミュニケーションにおいて、お互いが相手に勝とうとして、なんとか言いまかそうとしたり、逆にあきらめてしまうことが多い気がします。そんなときに、ちょっと考えて見るのはどうでしょうか。「勝つことは、コミュニケーションの目的ですか?」と。すると、「手段の目的化」が起こっていることに気づくかもしれません。

 

例えば、さきほどの新卒採用の話ならば、「会社にとっていい人材がほしい」という同じ目的を持っているはずです。

 

でもAさんは「協調性だと思う」と言い、Bさんは「独創性だと思う」とそれぞれが自分の正しさに執着しています。自分の考えは、目的を達成するための手段にすぎません。ところが、手段が目的になってしまうんですね。

 

誰もが、自分の考えを正しいと思っているから「自分を認めてほしい」と願うのは自然なことです。そのうえで、何のためにその会話をしているのかを思い出せたら、会話の質が変わってくると思います。自己承認欲求に乗っ取られて、本来の目的を忘れないでいられたらいいですね。

西任さん

「私を認めて」に乗っ取られないで

── ただ、ついつい議論が白熱してしまうと、コミュニケーションの目的を忘れてしまいがちですよね。

 

西任さん:

「私を認めて!私が正しいでしょ!」という気持ちで心がいっぱいになって、相手を言いまかすことができたときって、後から「あれ、私何やっていたんだろう」と思うことが多いのではないでしょうか。

 

言いまかした瞬間は、自分の正しさを証明できたという満足感があったとしても、あとから「なぜあんなことを言ったのだろう?」と自分のコミュニケーションが冷静さを失っていたことに気づくかもしれません。

 

はじめから意見がぶつかることが想定される会議などの場では、会議の目的を最初に共有するといいと思います。何のために話し合っているのか、目的をホワイトボードなどに書いておくと良いですね。

 

そうすると、意見がぶつかったとき、司会が「今日の目的はあれですよね、あの観点から、ここで一度整理してみましょうか」と言うことで、場が落ち着くと思います。

 

感情に飲み込まれずに、本来の目的に沿った会話ができたらいいですね。

 

PROFILE 西任暁子

ニシトアキコ学校主宰、スピーチコンサルタント、ラジオDJ、アメリカへ高校留学後、慶應義塾大学在学中にラジオDJデビュー。東京FMなど全国32のラジオ局で番組を担当。15年間でインタビューした国内外の著名人は5000人を超える。スピーチやコミュニケーションについて伝えながら心理学や哲学などを探求。著書に『話すより10倍ラク!新 聞く会話術』など。

取材・文/天野佳代子 写真提供/ニシトアキコ学校事務局