家族で夕食。夫は味には無頓着

「妻の飯がマズくて離婚したい」が話題になりました。実際、「食」に対して夫婦の価値観が違いすぎると、お互いにつらいものではないでしょうか。一方が「何を食べても腹に入れば同じ」と考えて、もう一方は「食は文化」と思っていたら相容れません。食事は毎日のこと。正解も不正解もない結末とは

「食事に興味がない」と告げてきた夫

1年ほどつきあって結婚したユミコさん(39歳・仮名=以下同)とソウイチさん(40歳)。結婚8年目で、6歳と4歳の子がいます。夫が食べることにまったく関心がないことをユミコさんが嘆いています。

 

 

「独身時代、デートで食事となると、夫はまず私に何を食べたいか聞いてくれるんです。自分で調べて予約もしてくれた。いつもおいしかったので、見た目はいかついけど、食に対しては繊細なんだなと思っていました」

 

ところが結婚してびっくり。共働きだからと夫も家事を負担することになりましたが、夫ができる料理はカレーとインスタントラーメンだけ。しかも、実は「食べることにまったく興味がない」と白状。なぜなら「母親が料理しない人だったから」だそう。

 

そういえば、結婚前に夫の実家に挨拶に行ったときも、ピザをとったり近所の鰻屋さんから出前が来ていたことを思い出します。それは歓待の意味合いではなく、義母が料理をしないことが理由だったのです。

 

「彼自身、高校時代からラグビーをやっていたんですが、大盛りご飯さえあれば満足なタイプ(笑)。まあ、それでもいいかと思ったので、食事作りは私がメインで、洗濯や掃除は彼がメインでやると話し合いました」

 

それでうまくいってはいたのですが

腕によりをかけた料理にも反応薄!

結婚して半年後、夫の誕生日がやってきました。ふだん多忙だから、誕生日の週末は「好きなもの言って!何でも頑張って作るから」と伝えると、夫からは「ごめん、何でもいい。近所の中華店のラーメンと餃子が食べたいな」と返事が

 

「夫はいつも私の作った料理を『おいしい』と食べてはくれますが、実は味なんてわかっていなかったんだなとそのとき改めて思いました。近所の中華料理屋よりおいしいラーメンと餃子を作ってやる、と思って材料を吟味。ラーメンスープなんて二日がかりで作ったんですよ」

 

ところが、夫は「おいしい」とは言ったものの、それ以上のコメントはなかったといいます。

 

「翌日、夫が捨てたゴミをちらっと見たら、中華料理屋のレシートがありました。でも実はその店、近所ではあまり評判がよくないんですよ。味が濃すぎるって。でも夫は凝った私のラーメンより、その店のしょっぱい味のほうが好きなんでしょうね(苦笑)」

味にうるさい長男をとがめる夫のひと言

何を作っても張り合いがない。子どもたちが大きくなってきて、ときには家族で外食しても、夫は食べるだけ。子どもたちが「おいしいね」と言うと慌ててうなずく様子。「おそらくおいしいとは思っていない」と、ユミコさんは見ています。

 

「食べることは文化だと思うんですよね。どんなものが入っていて、どんな味わいがあるのか、夫と語り合えないのはとても寂しいんです」

 

今からでも味覚を磨くことはできるかもしれません。ただ、夫に「その気」がないのが彼女には妙にせつなく感じられるそうです。

 

「長男は、夫と正反対で味にうるさい。だけど夫はそれが気に入らないみたいで、『男なんだから、何でも食えばいいんだ』と言うこともあります。先日、『そういう言い方はこれからの時代、しないほうがいい』と、私が言って大喧嘩に。自分が味覚音痴だからといって、男はそれでいいというのは解せない。子どもに押しつけるのもやめてほしい。こういうところから夫婦の亀裂が入るのかもしれないな…と、最近少し悩んでいます」

 

食の問題が夫婦関係にも影響を及ぼすなら、打開策を見いだすしかありません。どう言ったら夫にわかってもらえるのか。おいしい料理を作ろうと日々努力しながらも、ユミコさんはときどき虚しい思いにとらわれているそうです。

家族で夕食。夫は味には無頓着
料理を作っても悩みが深い妻

 文/亀山早苗 イラスト/前山三都里
※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。