2人に1人ががんになる時代。就労しながらがんになった場合、治療前の検査でも休みが必要となります。がん保険も扱うライフネット生命は、2017年10月から、自分が病気にならず、使わなかった休みをがんなどの病気になった社員に寄付できる「ナイチンゲールファンド」を開始しました。制度導入から4年を迎え、新たな課題も見えてきました。制度設計した人事総務部の関根和子さんにお話を伺いました。

 

関根さん
人事総務部の関根さん

がんになったときに利用できる休暇制度を

── 自分の休みをがんになった同僚に寄付できる仕組みがあると聞きました。どういったものでしょうか。

関根さん:

ナイチンゲールファンドというものです。がん保険を設計した際、がんに罹患した人たちに困っていることなどアンケートを取り、「勤務先でのサポートがない」「制度があっても、利用できない雰囲気がある」などがんを治療しながら働くことに対する課題があることが分かりました。経営層からも何かできないかと問題提起があり、検討したのが始まりです。

 

すでに病気治療のための休職制度は定めていました。治療に専念するための休職期間を最長9か月から、2倍の18か月まで勤続年数に応じて拡充しました。

 

2017年度から「ナイチンゲール休暇」として、従業員本人の病気療養、または家族、パートナー、ともに人生を歩んでいきたい人が病気やケガになった時の看護をするための特別有給休暇を年間3日間付与する制度を導入しました。

 

しかし、病気にならないと使わない休暇なので、全体で付与している日数の半分程度が使われないまま、毎年失効していっていました。それを2年分、全社として積み立てることにしました。2年で450日分ほどプールされています。そのプールされた休みのなかから、がんなどに罹患した社員に10日間、休みを付与できる設計にしています。これが「ナイチンゲールファンド」です。

 

── 個人的に「あなたにあげます」と寄付するわけではないのですね。

 

関根さん:

はい。ナイチンゲールファンドは、会社として病気のときのためのナイチンゲール休暇の残りを集めて、そこから付与しています。

 

── 有給休暇もありますよね。

 

関根さん:

はい。ただ、有給休暇はご自身のリフレッシュのためなどに使っていただきたいと思っているんです。病気などのリスクのために休みをとっておいて使わずに終わるより、ナイチンゲール休暇、ナイチンゲールファンドがあることで積極的に有給休暇をつかって休み、旅をしたり、読書をしたりして自己研鑽して欲しいと思っています。

 

また、ナイチンゲールファンドはがんの検査など初期で使う休みですが、がんの手術を終えて、抗がん剤治療も経て働けるという段階になったとき、使える制度も別にあります。

 

副作用があるなかで働く場合もあると思うので、通院にタクシーを使うなど日常よりお金がかかることが多いと思うので、そこを手当するため毎月5万円の手当を払っています。

相互扶助の考えでファンドに

── ファンドにしたのはどうしてなのでしょうか。

 

関根さん:

当社が生命保険会社で、相互扶助の考えなので、それが根底にあります。金銭的なものではなくて休暇としてシェアできないか考えて、運営させてもらいました。

 

社労士とも相談して取り扱いが法にふれないかも検討しました。年次有給休暇は定めがあるので他の人にあげることは好ましくないとの意見がありました。しかし、ナイチンゲール休暇は会社が定めたオリジナルの制度なので、他の人にあげるのは問題ないと判断し、保険的に取り扱いました。

 

── 社員の反応はいかがでしたか。

 

関根さん:

プライベートなことを会社にいうこと自体、必要ないと思っている方もいるなかで、会社としては「困ったことがあったとき、がんになったとき、治療と就業を両立させることは大事だと思っている。会社として手助けしたいので言って欲しい」というメッセージを制度としてお伝えできたと思っています。そのため、従業員からは「安心して働ける」とか、「もしもの時は相談していいんだ」など、治療しつつ働けることを歓迎する声がアンケートからも出ています。

 

会社のロゴマークと関根さん

がん罹患時に会社がサポートする姿勢を示している

── これまで利用者はいたのでしょうか。

 

関根さん:

いました。ただ当社が170名程度なので、人数は公表していません。個人が特定できないようにするためです。適用実績は制度を導入してからあります。

 

── 利用者の受け止めはいかがでしょうか。

 

関根さん:

やっぱりがんに罹患するってショックというか、これから自分がどうなるんだろうと思われると思うんですね。

 

「日常のありがたさが身に沁みます」とおっしゃっていて、仕事に戻ることが治療のモチベーションになっているようです。そして「サポートする制度がありがたい」という方がいたり、親御さんからも「いい会社だね」と言ってもらえたりしています。

 

治療している方から、治療の進捗とかも教えてもらえており、人事としてはありがたいと思っています。配慮はそもそもいらないのか、ご本人の状況を聞いて、上長と連携しながら、業務量を調整することなど可能になっています。

 

ご本人もプライベートなことを説明することを躊躇するなかで、制度があることでコミュニケーションがとりやすくなっており、制度があってよかったと思っています。

どこまで適用するか、長引く疾患はどうするかが課題

── デメリットはありますか。

 

関根さん:

デメリットというか課題も見えてきました。病気のラインですね。どの病気は適用させ、どの病気はしないのかということが難しいです。

 

がんに罹患されたとしても「上皮内新生物を除く」となっているので、上皮内新生物を取り除く手術はうけていても、ナイチンゲール休暇、ファンドの適用にはならず、申し訳ないなと思っています。

 

難病も集中治療というより、長く付き合うケースがあると思うので、何年も治療する場合は課題だと思っています。

 

会社の様子

── 何度も休職制度や特別有給休暇を使えるのですか。

 

関根さん:

いえ、休職制度については同一、類似傷病で休むのは6か月以内に再発した場合、残余期間を適用となります。

 

病気になったとき、突発的に退職を選択するのではなく、人事に相談してもらえるのはありがたいことです。そして、人事も何もないまま相談を受けるのではなく、一定の制度がある中で相談してもらえることは違うと思っているので、効果はあると思っています。

取材・文/天野佳代子 写真提供/ライフネット生命