機械部品や住設機器の設計や製造を行う太陽パーツ株式会社では、「大失敗賞」というユニークな賞の表彰式が定期的に開催されています。チャレンジが実を結ばなかった社員を「会社にノウハウを残した」と評価するこの取り組み。会社の風土づくりにも前向きな影響を与えているそうです。

 

こうした賞が生まれた背景について、総務部の児嶋 涼さんに伺いました。

太陽パーツ 小島 涼さん
総務部 児嶋 涼さん。主に人事・採用業務を担当。採用活動では、学生から高齢の求職者まで、幅広い年齢層の方と接するため、一人ひとりに合わせた柔軟な対応を心がけている。

5000万円の損失。大きな挫折が「大失敗賞」のきっかけ

── 「大失敗賞」はどんなきっかけで始まったのですか?

 

児嶋さん(太陽パーツ):

「大失敗賞」は創業者である会長の城岡陽志が約25年前に始めました。現在は、5月と11月の年2回、経営発表会で表彰されています。

太陽パーツ「大失敗賞」賞状

当時、社員の一人がカー用品の販売を手掛けた際に、その商品が大手企業のカーショップに採用され、全国のショップから大量の注文が届いたんです。社内は活気に沸いたのですが、半年後、それらが返品されてきました。

 

実はこれは売れたわけではなく、売れなければ返品されるというシステムを当社が把握していなかったために起こったことでした。総額5000万円もの損失が出てしまい、社内の雰囲気も非常に悪かったそうです。

 

そこで、その社員を励ますためにも「笑い飛ばして、次のチャレンジに活かしてほしい」と、創業者の城岡が「大失敗賞」を設けました。その後2002年に、当社が中国進出を計画した際のプロジェクトメンバーとして、この「大失敗賞」を受賞した社員が手を挙げてくれました。中国では上海工場の総経理を担い、大きく活躍したと聞いています。

「縁の下の力持ち賞」や「元気印大賞」なども

── 「大失敗賞」のほかにも社員に向けた賞はありますか?

 

児嶋さん(太陽パーツ):

はい。「社長賞」「優秀賞」「努力賞」などに加えて、すべての社員が仕事をより楽しくできるようにと、約20年前から「縁の下の力持ち賞」や「元気印大賞(現挨拶優秀賞)」といった賞を設けてきました。

 

「縁の下の力持ち賞」は、見えないところで頑張っている従業員を称える賞です。そういう人たちの力があってこそ、仕事が成り立つという気持ちを会社全体で共有しています。

太陽パーツ 受賞風景

── 賞にはどのような思いが込められているのでしょうか?

 

児嶋さん(太陽パーツ):

社会人になればたいていの人が、40年を超える年月、つまり人生の半分以上を職場環境に身を置いて仕事に費やしています。ですから、「仕事を面白くして、楽しい社会人生活を送ってほしい」という思いを込めて、それぞれの賞が考案されました。

コロナ禍で受賞した「大失敗賞」の理由とは

── 最近「大失敗賞」を受賞したのはどのような方でしょうか。

 

児嶋さん(太陽パーツ):

実は、前回の受賞者は「全社員」だったんですよ。

 

昨年はコロナ禍の影響を受け、創業40年で初めての大幅売上下落を経験しました。しかし、社員全員が思うように動けないなかでも、オンライン会議の活用など知恵を出し合い、新たな営業手法や管理手法のノウハウを作り上げました。その結果、販売管理費を大幅削減しました。これらを成し遂げた社員全員に対して授与したのです。

 

コロナ禍で太陽パーツでは働き方が大きく変わりました。しかし、私自身、失敗を恐れることなく、新しいことにチャレンジするという社風が育っているのを実感しています。

太陽パーツ 社屋

── 「大失敗賞」や「縁の下の力持ち賞」などが20年以上も続く理由は何でしょうか?

 

児嶋さん(太陽パーツ):

すべての社員の努力をいろいろな視点で他の社員にも知ってもらうこと、また常にチャレンジ精神をもって仕事をしてほしいという思いが社員に伝わっているのでしょうか。社員みんながゲーム感覚で参画していることも、長く続いている理由だと思います。

 

社員一人ひとりが、仕事に対して失敗を恐れずチャレンジしようと思える文化をつくりたいですし、仕事へのモチベーションを上げてほしいと思っています。受賞者には「大失敗賞」は2万円、「縁の下の力持ち賞」は5000円の賞金が出ること、たくさん賞があることも面白がってもらえているのかもしれません。

 

── これからどんな取り組みに力を入れ、どんな職場環境を目指したいですか?

 

児嶋さん(太陽パーツ):

2020年5月に本社が移転し、創業者の跡を引き継ぐ形で新社長に城岡正志が就任しました。新社長は就任に際して、企業理念に「社員の幸せ」を追加しました。

 

その「社員の幸せ」を実現できるよう、デジタルツールを駆使したDXプロジェクトを立ち上げ、全社を挙げて業務の効率化やより働きやすい環境づくりに取り組んでいます。

 

仕事は仕事として効率よく生産性を上げ、休日はリフレッシュできるような、メリハリを大切にした環境整備が進むよう、これからも社員全員でいろいろなチャレンジをしていきたいです。

 

 

ユニークな「大失敗賞」が設けられた背景には、会社として大きな挫折を経験した太陽パーツの「失敗の経験を次に生かそう」という前向きな姿勢がありました。

 

「縁の下の力持ち賞」も含めて、社員一人ひとりの働きぶりや会社での役割に目を向けたこの取り組みは、社員のモチベーションを高める大きな要素の一つになっているのではないでしょうか。

【会社概要】
社名: 太陽パーツ株式会社
設立年月: 1983年(昭和53年)5月
業種: 製造業
事業内容: 機械部品、住設機器の設計・製造

取材・文/高梨真紀 画像提供/太陽パーツ