理屈派の妻、それだけでないと主張する夫のイメージ

 「女は“少し天然”くらいがかわいい」が、通用したのはひと昔前のこと。今や男女関係なく、論理的かつ客観的に過ごさないと、多忙な日常を暮らしていくのは難しいでしょう。「うちの夫が、私を『子どもができてから理屈っぽくなった』と批判するんですが、私から言わせれば夫は感情で動きすぎなんです」。そう言ってため息をつく女性がいます。

 

長男が心配で、長女のことまで気が回らない夫

「共働きで家事も育児も分担しながら暮らしていますが、夫はとにかく感情的なんですよ(笑)。家族のこと、特に子どもに関しては、冷静に判断するのが苦手だなと思うことが多々あります」

 

チカさん(38歳・仮名=以下同)が同い年のテッペイさんと結婚したのは30歳のとき。現在、6歳の長女と4歳の長男がいます。夫は定時で帰れるケースが多い仕事のため、家事や育児も比較的、夫が多く担っているそうです。

 

「あるとき帰宅したら、夫が長男の枕元にじっと座っているんです。夕方、熱が出たと聞いていたし、もう医者にも連れていった。それなのに座って長男を見つめているだけで夕食の支度もしていない。どうしたの?と言ったら、心配で何も手につかないって!」

 

しかも、そこにいる長女がおなかをすかせて辛そうにいる。「どうして長女のことを考えられないの?」と怒ったチカさん。すぐに彼女は食事を作りましたが、長女は「パパにおなかすいたって言ったのに!」と恨めしそうだったといいます。

 

「ひとつのことしかできないのは、どうしてなんでしょうね。私だったら食事の支度をしながら洗濯機を回し、合間に仕事のメールに返信する、くらいのことはしますけど。そう言うと、夫は『どうせチカは能力があるって言いたいんだろ』と拗ねるんですが、いや、努力してないだけでしょと思います」

理屈で返すと嫌がる夫

ひとつのことにとらわれて周りを見渡せないのは、夫の性分なのかもしれません。物事をじっくり進めていくにはいいのですが、日々、時間に追われているチカさんから見ると「なんだかなぁ」と、首をかしげてしまうそうです。

 

「夫は不器用なんですよ。会社での人間関係も悩みがあるみたい。『仕事でこんなことがあった』と言うのを聞いていると、それは仕事の問題じゃなくて、あなたが同僚の言い分を理解していないだけでしょ?と思うことがよくあります」

 

先日も上司に嫌味を言われたと嘆く夫。チカさんが詳細を聞くと、それは上司が正しいんじゃないか、と思ったとか。

 

「会社って案外、根回しが大事でしょ。夫が企画を立ち上げた案件がうまく進まない。上司には早く進めろと言われているけど、他部署も絡むのですんなりいかない…という具合で。だったら上司から根回ししてもらうか、自分がするか、それか他部署の誰かを焚きつけるか、選択肢はあるよね?と言ったら、『そんな手間をかけられない』だって。仕事で手間をかけるのは当たり前のことなのに!問題の解決に、選択肢を複数用意するのは基本だと思うんですけどね

 

テッペイさんはつねに正面突破を試みるタイプのようですが、仕事とはいえ、多くの人間関係がからむのであれば、チカさんのように裏から行くか、斜めから行くかも考えたほうがよさそう。

 

「将棋と同じで何手先かまで読んだほうがいいよと言ったら、『チカみたいな同僚とは仕事をしたくない。ギスギスする』って。『だいたい、理屈っぽいよ』と拗ねちゃいました」

「俺のことバカにしているよね」「そんなつもりは

ふだんの食生活に関しても論理的なチカさんと、そうでないテッペイさん。

 

「私、食べ合わせは気にします。たとえばカルシウムとビタミンDが結びつくと骨が強くなるから、この食材を入れた料理がいいとか。みそ汁には、カリウムを含むものと食物繊維が豊富なものを多く入れると、味噌の塩分を過剰摂取しなくてすむとか。おいしくて、かつ意味のある食事をしたいから」

 

でも、夫はそういうことには無関心。「理屈で食事をするなんて嫌だね」と言うそうです。論理的じゃないねと、チカさんがつぶやくと、夫は「チカの理屈っぽさにはついていけない」とため息をつきました。

 

「理屈っぽいんじゃなくて、効率的なだけなんです。ときどき『オレのこと、バカだと思ってるだろ』といじける夫に、最近では、あまり合理性や効率を押しつけてはいけないのかなとも感じていますが、なんかモヤモヤするんですよね」

 

そう言ってチカさんは苦笑します。健康や仕事など、効率を考えたほうがいいものは夫にも実践させたいチカさんは、今は時間をかけて夫に関心をもってもらうしかないと考えているそうです。

理屈派の妻、それだけでないと主張する夫のイメージ
食事も食べ合わせなど合理的に考える妻のイメージ
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。