最近、よく耳にする“親ガチャ”。「生まれる環境、親を選べない、運任せ」であることを、ガチャガチャになぞらえています。ネットスラングから、いまや一般的に浸透してきた様子。毒親に悩まされていた女性は、「親ガチャだからしかたないのか…」と、自分に言い聞かせているようです。
友達や彼氏に入り込んでくる毒母
「実母を“毒母”だと思っています。暴力をふるうわけじゃないけど、からめ手ですべて先回りするタイプ。小学校のときは友だちができると、母がその子を独自に調べて『あの子とは遊んじゃダメ』と言ったりする。家庭がかんばしくないなどの理由だったみたいですが、要は母の好き嫌いで決まるんです」
ユミカさん(38歳・仮名=以下同)はため息をつきます。ひとりっ子で両親に溺愛されたのですが、母の愛は愛情ではなく、“束縛だった”と感じているそうです。
「大学時代にサークルの先輩・ケンさんとつきあい始めたんですが、母は私の女友だちを把握して、彼女たちから情報を集める。『若くて面白い母』を装うんですよ。それで私の恋愛も聞き出す。彼に連絡をして『まだおつきあいは早いから、フッてほしい』と頼んだり。彼が話してくれて知ったんですが、とんでもないですよね?」
彼は、「お母さんはきみに嫌われたくないから、直接は言えないんだろうね」と言ったそうです。ユミカさん自身も、父と不仲だった母に冷たくできませんでした。
「あの子は不倫」と嘘をつく母に…
28歳のとき、ユミカさんはつきあったり別れたりを繰り返しながらも、縁が切れなかったケンさんと結婚。結局「わかってくれるのはこの人」と思ったのだそう。
「新居は実家から遠いところにしましたが、今は通信手段が多いので、母は相変わらず連絡をしてきます。私がカリカリしていると、ケンさんが『大丈夫だよ、聞き流せばいいんだよ』と言ってくれる。それで私も心穏やかに暮らせる」
しかし、母はケンさんに連絡してきて、ユミカさんの昔話をしたり、あることないこと言いふらします。
「不倫なんてしたことないのに、母は『大学生の頃、アルバイト先の塾の講師とつきあっていたみたい。知ってた?相手は既婚者だったらしいのよ』って話すわけです。私はその講師を純粋に尊敬していたので、教わっていただけ。知ったようなことを彼に吹き込まないでと、一度、母にキツく言いました」
ついに毒母に絶縁宣言。でも葛藤は消えない
子どもが生まれた頃、『私たち一家は、もうあなたとはつきあわない』と、ユミカさんは母親に宣言。それ以来、夫にも母からの連絡を無視してもらい、自身も5回に1回程度しか反応しないことにしたそうです。
「そうでなければ自分が潰れてしまう」とユミカさんは思ったそう。仕事をしながらふたりの子を育てる今の暮らしを、彼女は本当に大事にしています。だからこそ、もう「母には振り回されたくない」のでしょう。
「最近、『親ガチャ』という言葉を知りました。母の強すぎる情念を無理やり断ち切ろうとしている私にとっては、選べない環境に生まれてきてしまったのだ、と思うと少しだけホッとします。そういう言葉が生まれる背景には、親に悩まされる人も多いという事実があるわけだし、私だけじゃないんだと」
親として子どもに懸命に向き合っているのはわかる。だから、母に優しくできない自分を責めたこともあるユミカさん。夫の「気にすることはないよ、ユミカは悪くない」の言葉に救われてきました。
そして今また、「親ガチャ」という言葉で、少し楽になったそうです。母娘関係の葛藤は簡単に消え去るわけではありませんが、見方を変えると気持ちが軽くなることもあるのかもしれません。