丁寧にそしてユーモアを交えて話をしてくれるヒャダインさん

なぜあの人は、スマートに仕事ができて活躍し続けているのか。意識や考え方にコツがあるのか、それとも行動パターンが違うの?

 

そんなプロフェッショナルに仕事力を聞くシリーズ・第1回は、音楽クリエイターとして作家、歌手、執筆など多才に活動するヒャダインさん。仕事力とは「妥協することだ」と言います。プロフェッショナルなのに妥協とは?お話を伺いました。

33晩寝ないで作った曲に修正が入っても

── いきなりですが、ヒャダインさんにとっての仕事力とは何ですか?

 

ヒャダインさん:

妥協力でしょうか。プロフェッショナルとして、一番ダサい言葉ですけど(笑)。僕、何か企画をする際に2つパターンがあって、Aプランで進めましょうって言われて調整したものが、急遽Bプランになりました!って言われても全然執着しないんです。「分かりました!僕もそう思ってました!」って言いながら、Aプランをバッサリ切ります。

 

他のクリエイターさんたちは(もちろん良いことですが)すごくこだわりを持って、絶対Aパターンじゃなきゃ嫌だ!となるところ、僕は薄情な部分もあってあっさりOKしますね。

 

ただ、僕がいう“妥協力”とは、自分のこだわりを捨てるとか、上から言われたことに全部応じるという意味ではないんです。妥協しても結果として良いものが残せるなら、相手にアジャストしようという意味での妥協力ですね。

  

── しかし、一生懸命時間をかけて作ったものがコロッと変更されると、正直、複雑じゃないですか

 

ヒャダインさん:

33晩寝ずに作曲したものにガッツリ修正依頼がきたり、まるまるパターンが変わったこともありました。でも、それは単に自分の実力不足だっただけ。逆に見当違いなものを出して恥ずかしいなと。

 

それに、ただ相手が意地悪や自己顕示欲で言っていたら僕も駄々をこねますが(笑)、今まで運が良かったのか、あまりそういったこともなかったし。そもそも、物事を1人で作っているわけではないので、皆と一緒に良いものを作りながら融合していけたらいいかなと思います。

変えられない現実にイライラするのはムダかなって

どんな質問にも的確に返答するヒャダイン さん

── 以前から物事に執着するようなことはなかったんですか?

 

ヒャダインさん:

いえいえ、昔は執着してたんですよ。それこそ作家をやり始めた頃は、リテイクとか全取っかえもメチャあって。そのつど「はぁ?」と不貞腐れて、しばらく提出しなかったこともありました。こんなに頑張ったのに自分が可哀そうとか、なぜか「人格まで否定された気分」だったのかもしれませんね。

 

── なぜそこから、マインドを変えることができたのですか?

 

ヒャダインさん:

執着してイライラするのが、ムダな気がしてきたんですよ。怒っても誰も得にならないし、現実が変わるわけでもない。

 

ときどきは変わることもあるので、その場合は僕も粘りますが、これは動かないなぁってときに、「なんでだよ」「ふざけんな」といったところで、何も変わらない。それに「ふざけんな」と言うたびに、自分の中で毒ガスがたまる気がします。

 

それなら友達に愚痴ればいいかとなるかもしれませんが、聞かされる友達も嫌な気持ちになりますよね。一から話を説明して、最悪なんだよって。

 

もちろんそれによって、不快指数が2分の13分の1になることも知ってますし、そういった経験で友達に助けられたこともたくさんあります。でも、そのフラストレーションをムリにシェアするのもなぁと。

ファッションセンスも抜群のヒャダインさん

── たしかに毒ガス出そうですよね。

 

ヒャダインさん:

血圧上がりそうだし、イライラして辛くなるし、ご飯も美味しくなくなる。嫌な奴のことばっかり考えるのって、人生有限なのにすごくムダな気がするんです。

 

それよりも、“今日は夕焼けが綺麗だな”とか、“お酒が美味しいな”とか、そういったものを感じる方がずっと時間の有効活用だと思うんですよね。

 

もちろん、感情と理屈は切り離せないことも重々承知しているんですけど、そういったアンガーコントロールのようなことは、自分のために無理くりにでもするようにはしていますね。

 

── そう切り替えらえるようになってから、変化はありましたか?

 

ヒャダインさん:

すごく楽になりました!修正をすることで、一生懸命頑張った過去の自分が可哀そうっていう部分はもちろんありますが、でも、過去の自分に会えるわけではありません。

 

それより「自分の機嫌を取る」ことの方が大事かなと。「妥協=劣化版」が生まれるわけではなく、みんなで良いものを作っていくためにアジャストしていくのは自分も周りも健やかですよ。

 

PROFILE ヒャダイン

音楽クリエイター。1980年大阪府生まれ。本名 前山田健一。3歳でピアノを始め、音楽キャリアをスタート。京都大学卒業後、本格的な作家活動を開始。様々なアーティストへ楽曲提供を行い、自身もタレントとして活動。テレビ朝日系列「musicるTV」、フジテレビ系列「久保みねヒャダこじらせナイト」、BS朝日「サウナを愛でたい」が放送中。

取材・構成/松永怜 撮影/伊藤智美