なかなか思い通りにならない子育てと仕事の両立…。毎日多忙なママやパパから厚い支持を集めているSNSがあります。
情報を発信するのは「パパ小児科医」さん。予防接種など医療や子どもの成長に関する内容はもちろん、パパとして子育てに奮闘する姿が垣間見えるつぶやきなどが人気を呼び、フォロワー数はツイッターとインスタグラムをあわせて約10万人。
「書きたいことを思いついたら忘れないようにネタ帳に書いているんです」と語る中の人、加納友環(かのう・ともわ)さんが小児科医として大切にしていることとは──。
親の気持ちに寄り添うことが一番大事
── SNSでは、まず小児科医としてのわかりやすくて正確な情報が印象的です。普段の診療ではどんなことを大切にされているのでしょうか。
加納さん:
診療では、病気の症状の相談のほか「離乳食を食べてくれない」「おねしょが続く」など、いろいろな相談を受けます。人によってその内容は多岐にわたっていて、僕がお話しした内容の受け取り方も様々。前向きに考える方もいれば深刻に捉えそうになる方もいます。だから、親御さんのそうした様子を見ながら対応しています。
一番大切にしているのは、親御さんがどんな気持ちで相談されているのかをよく考えること。一人ひとりに合わせて声がけをするようにしています。長期的に通っている親子であれば、悩みを一緒に解決していくつもりで、パートナーのような関係性をつくりたいです。
── 一人ひとりに寄り添った診療をされているのですね。
加納さん:
僕自身、7歳のときに病気でしばらく大学病院に入院した経験があります。そのとき医療に興味をもち、医師を志すようになったのですが、当時の主治医の先生たちの接し方が印象に残っていて。良い面は真似していきたいですし、逆にネガティブな面については僕自身が診療するときに気をつけるようにしています。
そのなかでも、患者である僕の気持ちを尊重してくれたときに嬉しさを感じ
たので、小児科医になった今も、子どもの立場に立った診療を心掛けています。たとえば、採血はいきなりではなく事前に言うとか、薬は苦くない方がいいとか。そういう細かなことも子どもにとっては大事なので。
ちなみに、その主治医の先生には僕が医師になってから再会しました。先生も僕のことを覚えてくれていて、嬉しかったですね。
ネットの情報に救いを求めるママたちの役に立ちたい
── それは忘れられない再会になりましたね!それでは「パパ小児科医」として情報発信を始めたのはどんなきっかけからだったのでしょうか。
加納さん:
第一子が生まれた時に、妻が授乳や子どもの様子などで悩んでいるのを見ていました。授乳がうまくいかず自宅から出られなくて、僕が仕事から帰ると「一日誰とも話さなかった」と言う日もあって。困ったり悩んだことはネットで検索しながら、自分一人で解決しようとしていたようでした。
その姿を見て、「もしかしたら同じように自宅で一人過ごしたり、不安を抱えていたりするお母さんがいるんじゃないか」と思ったんです。それで「小児科医として、情報を発信できれば役に立つかもしれない」と考えて、2016年にツイッターの投稿を始めました。
── その後、インスタグラムやブログも始めて、積極的に情報を発信されていますよね。投稿する際に何か気を付けていることはありますか?
加納さん:
医療的な知識については、一般の方にもわかりやすく伝えようとすると、正確さに欠けた情報になる恐れがあります。かといって正確性を優先させると専門的すぎて難しくなりがちだし…。専門的な情報をわかりやすく伝えるポイントでいつも悩みます。
あとは具体的な行動につながる情報になるように心がけています。たとえば、「3日以上熱が続いて水分もあまり取れない時には医師に相談しましょう」というふうに。
── SNSは子育て一つとってもいろいろな情報が集まるツールですが、お医者さんから具体的に発信してもらえると安心できますね。
加納さん:
僕がツイッターを始めた当時は、SNSで親御さんたちに向けて情報を発信している医療従事者はほとんどいませんでした。当時はそれをどうにしかしたいと思ったし、それが原動力になっていたと思います。
匂いや性器の悩み…人に聞きづらいことも積極的に発信
── 情報があふれるなかで、自分の子と人の子を比べてしまう人も多いように思います。
加納さん:
「1歳5か月のわが子がまだ歩けない」と悩む人や、健診までに“できないといけない”と思い込む人もいます。確かに、歩けるようになる月齢の目安はありますが、あくまでもそれは「目安」にすぎません。まず、発達には個人差があります。もちろん緩やかに発達するお子さんもいます。乳児健診の目的としては病気の早期発見をすること、「できること」増やすためにどのようなサポートをしていくかを考えることだと思っています。
── お医者さんにそう言ってもらえると気持ちがラクになります。加納さんの小児クリニックでは、アレルギーの診療もされているそうですね。SNSでもアレルギーに関連する投稿をされていますが、その際に何か心掛けていることはありますか?
加納さん:
特に食物アレルギーは重症度も品目も異なるので、SNSでは個別の詳しい情報発信は控えています。一般的な情報が入手できるWEBサイトを紹介することが多いですね。
アレルギー診療はここ10年で大きく変化しているんですよね。基本的にかかりつけ医と相談しながら治療法を決めていくと思うのですが、もしかしたら通っている病院の考え方が古かったり、偏っていたりすることがあるかもしれません。親御さんが正しい知識を持つことで治療の選択肢を広げられるように、フラットな情報を発信するように意識しています。
── 視野が広がれば、もし何か違和感があったら、かかりつけ医に相談することもできそうですね。SNS発信を始めて5年経ちますが、どんなことにやりがいを感じていますか?
加納さん:
やっぱり、親御さんたちから「教えてもらえてありがたかった」「投稿がきっかけで受診し、治療できた」と喜んでもらえることですね。アレルギーについてや、事故予防、小児科を受診する目安や準備などは、特に役立ててもらえているようです。加えて、女の子のおまたが匂うとか、男の子の陰部の悩みなどは、「まわりに聞きにくいことなのでありがたい」といったコメントをよくいただきます。
親として成長する自分の視点を活かして発信したい
── デリケートな問題は親御さんだけで抱えてしまいそうですよね。自分を振り返っても、そういう状況から解放されるのはすごくありがたいです。今後、SNS発信で「こうしたい」と感じていることはありますか?
加納さん:
最初は、医師として役に立つ情報を発信したいという思いで始めましたが、ここまで続けてきて思うのは、子どもがいくつになっても悩みは尽きないということ。つまり、1歳児の親御さんは1歳児特有の悩みを持つし、1年後には当然、2歳児ならではの悩みを抱えるんですよね。
時代の流れを意識しつつ、その時々に合った内容を発信するように心がけているつもりですが、もしかしたらいつも似たような情報を発信しているんじゃないか?と思うときもあって。なのでゆくゆくは、基本的なことをどこかにまとめて、気になった時にいつでも誰でも情報を見られるようにしたいと思っています。
僕は親としても成長していくと思うし、たとえば子どもが小学生や中学生になったら、未就学児とは違う気づきや悩みも出てくるはずです。その時々に、感じたことや伝えたいことを臨機応変に発信していきたいですね。
Profile 加納友環さん
取材・文/高梨真紀