義母の老いを実感した嫁の心境

この二つの出来事から義母自身もさすがに弱気になり、時折「そろそろ仕事辞めた方がいいかしら」とこぼすようになりました。

 

雨の日も風の日も自転車で他人の家を駆けまわり、大急ぎで家事や介護をこなす訪問ヘルパーは、大抵の人が想像するよりもハードな仕事です。私を含め家族もみんな、やはり義母の身体が心配です。正直、仕事はこれを機会に引退してくれた方が安心だなと内心では思っていました。

 

しかし、手術後の療養期間、今までになく家に閉じこもっていた義母が、どんどん覇気をなくしていく様子なのが気がかりでした。

 

また、長く仕事を休んでいる義母が、介護事業所の社員からの復帰を促す電話に、実に嬉しそうにしているのを見て、引退してもらった方が安心だ、という私たち家族の気持ちも徐々に和らいでいきました。

助けられながら働いてもいいじゃない

あの入院から療養までの期間は、義母には外で働く時間が絶対に必要なのだ、と家族みんなが確認する期間だったのだと思います。

 

高齢で、お金に困っているわけでもないのなら、無理してまで働かなくてもと、まだ若い私たちはつい考えてしまいます。

 

でも、義母やその同年代のヘルパーさんたちの働きぶりを見ていると、その考え、もう古いんじゃないの、という気がしています。みんなそれぞれ持病や体のあちこちの不調を抱えながらも、自分のできる限りの力で働き続けている人がたくさんいます。

  

若いうちのようにがむしゃらに長時間働くことは無理でも、自分が足りない部分を補ってもらいながら、労働力として提供できる部分はする。それは、私たち子育て世代が子どもを保育施設や学校に預かってもらって働くのとそれほど変わりないことではないでしょうか。

 

高齢者が家に閉じこもってしまうと、衰えていく一方になりがちです。やはり他人から「あなたがいてくれてよかった、助かった」と言われる、他人から必要とされることが何よりの生きがいになるのではないかと思います。

 

世代や、置かれた状況を問わずどんな人でも、少しでも働ける、働きたい気持ちがあるうちは、周りがそれを支える。

 

それが回りまわって、色々な世代が孤立せずに関わり合いながら暮らせるのが理想じゃないか、と今の私は思います。

 

手術から数年が経ち、義母は仕事の件数をセーブしながらも、毎日元気に働いています。

 

「もう新しい利用者の担当はしたくないって言ってるのに、人が足りないって頼まれるとつい、嫌とは言えなくて」と文句を言いながらも、義母はまんざらでもなさそうです。

 

義母が続けたいという限りは仕事を続けてほしい、家の外との接点を持ち続けて欲しいそのためには私にできるサポートは惜しみません。

 

義母自身の生きがいのため、そして何より、まだまだ元気な義母の、有り余るエネルギーで家を破裂させないためにもと思う同居嫁でした。

 

文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ