Uターン夫婦の現実1

地元の高校を卒業後、東京の大学へ行ったふたりが都内で再会して結婚。子育てしながら住まいについて考えていくと、やっぱり地元がいいと意見が一致し、故郷に戻ったといいます。ところが、地元を離れ20年以上経っていたためか、なかなかなじめないという夫婦がいます。

 

地元に戻る決断に友達も喜んで、転職も順調にいったのに

「彼と再会して結婚したのは、28歳のとき。そこから10年以上、東京で頑張っていました。ただ、上の子が喘息だったり、下の子もアレルギーが少しあって。家を持って生活するなら、やっぱり地元がいいよねということになったんです」

 

サキさん(41歳)はそう言います。現在、長女が11歳、長男が8歳になりました。地元は東京から約1時間半の場所。夫だけでも都内の会社に通うことを考えましたが、それでは家族の時間がとれません。そこで 2年ほど前、一家でUターンすると決めたのです。

 

「地元の友だちとはずっと連絡を取り合っていたし、帰ると言ったらみんな喜んでくれました。だから何の問題もないと思ったんです」

 

地元は県庁所在地のある都市圏。夫と自分の実家は歩いて10分足らずの場所です。その近くに家を買うことになりました。ターミナル駅からはかなり離れているので、中古住宅はかなりお買い得で、リフォーム代も都内とは雲泥の差でした。

 

「ひとり一台、車は必須ですけどね。でも自然は豊かだし、すぐ近くに小学校もあります。夫は専門職なので、比較的、容易に仕事が見つかりました。私のほうがなかなか見つからなかったんですが、引っ越して生活が落ち着いた頃、紹介してくれる人がいて前職と似たような仕事に就くことができました」

 

両家の親たちも近くにいるし、昔からの友だちもいます。“老後も心配ないね”と夫婦で喜んでいたそうです。

 

押し寄せる知人や友人からのやっかみ

「ところが、地元の友人たちに“帰ってきたよ”と連絡したら、みんな、喜んではくれたんですが『ここらへん、仕事がないのにダンナの仕事、よく見つかったね。コネでもあった?』とか、『そもそも何で帰ってきたの?』とか、やたらとうるさいんですよ(苦笑)。最初は、昔からのどかで大きなニュースのない街だから、私たちが話のネタになってるんだと笑っていたんですが、どうもそれだけじゃなかったみたい

 

中学時代の友人たちとランチをしたとき、サキさんは女性たちの多くが専業主婦であることに驚きました。彼女たちに働く気もないようです。

 

「地元では、親世代は農業をやって、夫はサラリーマン、そして妻は専業主婦というパターンがほとんど。専業主婦が悪いわけではないですよ。だけど、東京の大学時代の友人は、多くが結婚後も何らかの形で仕事をしているので、そのあたりの感覚が私にはわかりづらかったんです」

 

少し仕事の話をしてみたら、「東京の大学に行った人は違うよね」とあからさまに言われてしまいました。

 

やっかみかなと思ったのは、次に高校時代の友人たちに会ったとき。地元の大学に進んで地元に就職した人たちから、『東京の気分では、ここでは生活できないよ』と言われて、ああ、そういう目で見ているのか、と思うと同時に、東京暮らしを経験した人間に冷たいのはやっかみのせいかと感じたんです」

 

あげくの果てには、「都落ちしてきた気分は?」とまで言われる始末。地元が好きで戻ってきたとは思ってくれないの…?と、サキさんは落ち込みました。2年たった今では、さすがに嫌みを言う人もほとんどいなくなりましたが、それでもたまに「東京にいたほうがよかったでしょ?」と面と向かって言われることもあります。

 

“地元に帰れば幸せ”が待っているわけではない

 「隣近所を気にするんですよね、みんな。だから女性が働くと、『あの家はダンナの稼ぎが悪い』と言われてしまうし、子どもを塾や習いごとに通わせると、『何のために?』と不思議がられます」

 

サキさんは、なるべく地元の友人たちを頼ったり持ち上げたりと努力を続けました。それが功を奏して、1年前、子どもが急に具合が悪くなったとき、夜中なのに近所に住む友人が知り合いの医院を叩き起こしてくれたこともあります。

 

2年たって、ようやく少し溶け込めたけど、それでもやっぱり、私が仕事をしていることをよく思わない人もいるし、東京を毛嫌いする人もいる。今でも、私も夫も憂鬱な気分になることが。もう一度、東京に戻る手もあるのかな、とふと思うこともあります」

 

人間関係が濃厚とはいえない東京暮らしですが、むしろ、それが向いている人もいます。Uターンはブランクがあるため、その間に考え方も価値観も地元とは乖離してしまうのかもしれません。地元ならいつ帰ってもなじめるというわけではなさそうです。

 

Uターン夫婦の現実1

 

Uターン夫婦の現実2

 

文/亀山早苗 イラスト/もちふわ

※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。