問い続けることで、奥底にある想いを引き出す
──お互いに「自分の本心に向き合う覚悟」が必要なんですね。
百合子さん:
『夫婦会議』でもお話ししているんですが、最初に「自分はどうしたいのか」という“わたし”のビジョンを言語化することってすごく大事なんです。その上でお互いのビジョンを持ち寄って、「夫婦・家族としてどうありたいのか」という“わたしたち”のビジョンを一緒に考えます。そして、本気で実現したいなら二人で力を合わせる。このプロセスが欠かせません。
ただ、ビジョンはライフベントを機に変化することがあるので、時折確認し合うことも大切です。私たちの場合は、結婚の段階でビジョンを共有し合えたところまでは良かったものの、いざ子育てがはじまると夫の「一家団らん」に向けた具体的な行動が見えてこず…“本当の想い”を知らなければ、という思いがずっとありました。
──遥さんの“本当の想い”ですか?
百合子さん:
そうです。「一家団らんをどうやって実現していくか」ではなく、「働き方を変えられない事情」しか出てこないのはなぜか。一家団らんに対する本気度が見えてこなかったから、問うことをやめませんでした。
私が運転する車の中で、夫が自分でも気づいていなかった気持ちを号泣しながら吐露してくれた時のことは今でも忘れません。
自分の中にある恐れや不安などの本音と向き合い、自分の意思で変わる覚悟を決めたことが伝わってきました。「本音を聴かせてくれてありがとう」と、夫に対するわだかまりが解けていくと同時に、これでようやく一家団らんに向けて協力して踏み出せると思えました。
遥さん:
「一家団らん」は人生で最も成し遂げたいことだったけれど、会社での立場ややりがいもあったし、何より収入を手放すようなアクションを起こすのが怖かったんですよね。
そんななか、妻は「わたしたちとして、どうする?」と何度となく『夫婦会議』を持ちかけてくれていた。対する僕は、自分で自分の気持ちにふたをしていたような気がします。当時は夫の自分が稼がなくてはという気負いもあり、弱音や不安を口に出しちゃいけない…自分でなんとかしなければ、そればかりで。以前の僕のような人はきっと多いでしょう。でも、勇気を出してまずは自分の本音と向き合い、その想いをパートナーに伝えていくことが大切だと思います。
本気の“対話”で夫婦のパートナーシップは育まれる
──遥さんがやっと胸の奥底に抱えていた想いを吐き出せた瞬間だったんですね。百合子さんの覚悟もうかがえます。
百合子さん:
何度も離婚の二文字がよぎりながら、夫と一緒に人生を創っていくことを諦めたくないという思いが強かったですね。もし、夫が結婚当時に語ってくれた「一家団らん」が嘘なら…本当は実現する気がないなら、その時は諦めがつくと。納得できるまではやろうと。
そんな経験を重ねるうちに、私はとにかく、“夫婦の対話”をしたかったんだと気付きました。たとえ考え方や意見が違っていても、そこからのスタートというだけで“わたしたち”としての答えを出していける関係性を大事にしたかったんです。わが家の場合、日常的な会話はあったし時には議論もしたけれど、肝心の“対話”になかなか行き着かなかった。何かが足りないとずっと考えていたけれど、そういうことだったんだと(笑)。
ちなみに、この“対話”に欠かせない要素の一つが“問い”なんです。やみくもに問いを重ねても納得解に繋がりにくいので、多少のテクニックが必要ですが…。自分の本当の気持ちを伝え、相手の本当の気持ちも聴いた上で「わたしたちとして、どうする?」という問いを繰り出していくと、より良い対話の場に発展すると思います。夫婦のパートナーシップに魔法なんてものはありませんが、この問いだけはある意味“魔法の言葉”なんじゃないかな。
遥さん:
あれから5年経ったいまも、『夫婦会議』で地道に対話を繰り返しています。今では子どもを交えた『家族会議』もしょっちゅう(笑)。5年後、10年後の夫婦・家族の関係が更に楽しみです。
きっと世の中には、“対話”ができていないご夫婦はたくさんいると思います。自分の心の奥底にある想いを伝えるのが怖い、恥ずかしいと思っている人もいるでしょう。でも、より良い夫婦のパートナーシップは、自分の想いをきちんと伝え、相手の想いもちゃんと受け止めることから始まります。
口頭では難しいなら、ノートに書き出すのもおすすめです。僕たちの場合は「夫婦会議ノート」を使って定期的に夫婦会議をしています。美味しいコーヒーとコンビニスイーツがお供です(笑)。
はじめて『夫婦会議』を行う人は、最初は夫婦・家族のビジョンといった大きなテーマで話し合ってみるといいと思います。その上で、家事、子育て、仕事、お金、住まい、セックス、自由時間、親との関係といった細かなテーマについて話し合っていくとスムーズですよ。
大切なのは、お互いの考えに関心を持ち、価値観を否定しないこと。今すでにズレを感じているなら、最初から話し合いがうまくいくほうが珍しいと思ってください。焦らず少しずつでいいから、お互いに理解・協力し合うためのコミュニケーションを続けてみてください。一緒に頑張りましょう!
Profile 長廣百合子さん・遥さん
百合子さん/1984年福岡県生まれ、遥さん/1976年東京都生まれ。2013年に結婚し、百合子さんは2014年に出産。産後うつ、産後クライシス、ワークライフバランスなどの危機に直面した経験を活かし、2015年に夫婦でLogista株式会社(https://www.logista.jp/)を設立、共同経営者となる。子育て夫婦のパートナーシップを育む「夫婦会議」のツールや講座・研修などを展開。
取材・文/高梨真紀