先日、某テレビ番組で「婚前契約書」が特集され話題になりました。
ただ、結婚前にお互いの希望を出し合って話し合い書面にする「婚前契約書」そのものは、最近生まれたものではなく、海外では以前からポピュラーな存在で、日本でも近年作るカップルは増えているといいます。
婚前契約書を作ることで、結婚生活や子育てにどのような影響があるのでしょうか?
また、賛成の人、反対の人はそれぞれどんな理由でそう感じているのでしょうか。
SNSの反響などを中心に紹介します。
そもそも「婚前契約書」とは?
「婚前契約書」は別名「結婚契約書」「婚姻契約書」などともいい、結婚前に家事分担や財産分与・保険・介護・飲酒やギャンブルなどについてルールを作り、守らなかった場合の措置も明記した書面です。
海外では、日常の家事分担やいざというときの決断で揉めないよう、結婚前に数十ページにもわたる契約書を交わしているカップルも多く「パートナーシップ制度」「プレナップ」などとも呼ばれています。
過去に、偏った内容の契約書がTV番組で取り上げられたり、海外セレブの離婚時に話題になったりしたため、婚前契約書にネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし本来は、夫婦のどちらかが得するようなものではなく、お互いに納得できる内容であることが求められます。
日本では、法的効力を持つもの・持たないもの両方が婚前契約書と呼ばれていて、次のように分類されます。
覚え書き
カップルが自分たちだけで作成するもので、法的には「私文書」にあたります。 項目を書いてサインと捺印をするだけで完成しますが、離婚時などの法的効力はほぼ期待できません。
契約書
法律事務所や行政書士事務所などで作成してもらえますが、分類としては「私文書」にあたります。
ただ、一定の法律知識と書式にのっとったものは裁判などで参考資料として認められるケースもあり、日本では「婚前契約書」といえばこの形が多いようです。
公正証書
「公証役場(こうしょうやくば)」で作成するもので、「公文書」として扱われます。
たとえば夫婦のどちらかが、契約により家計に毎月入れるはずのお金を遊びに使ってしまったような場合、強制執行(取り立て)が可能になることもあります。
夫婦財産契約書
民法755条に規定されている「夫婦財産契約書」は、法務局に登記する公文書です。
家事分担や日常生活のルールなどは取り決めできず、財産に関する事項のみの契約書です。
また結婚前のカップルしか作成できないと決められています。
歌手のSILVAさんの婚前契約書とは?
実際に婚前契約書を交わした有名人として知られる歌手のSILVAさん。
彼女は、2度目の結婚の前に「収入はお互いに報告する」「家事は平等に行う」「2万円以上のものを購入するときには事前に協議する」「健康ドックを毎年受ける」などの項目を盛り込んだ契約書を作成したそうです。
1度目の結婚では、勢いに任せて話し合いをしなかったために結婚後に価値観の違いで苦しみ、結局離婚に至ってしまったといいます。
そこで、パートナーを1年半かけて説得して、お互いの希望を取り入れた契約書ができあがったそう。
内容は年に一度見直し更新しているそうで、
「口約束では忘れてしまうことも、細かく決めておけば、約束が守られずにお互いイライラすることがないし、結婚後も2人が大事にしたいことを維持できて夫婦ゲンカも少なくなる」
と話しています。
ネットでの「賛成」VS「反対」…あなたは?
テレビ番組の放送内容を受け、インターネット上でもいろいろな意見が出ていました。
独身の男女からの、
「こういう契約があるなら安心して結婚できそう」
という感想や、結婚している人からの
「前もってこういう話をしっかりしておけばよかったなぁ」
と振り返る声も多く見られましたが、反対に
「こんな契約するなら結婚なんてしたくない」
と拒否反応を示す人も相当いました。
賛成の人、反対の人、それぞれの声をみていきましょう。
婚前契約書に賛成する人の理由
日本では、夏目漱石の小説にあるように「好きです」というかわりに「月がきれいですね」と、自分の意見や要求をはっきりと口に出さないことが「奥ゆかしい」と評価されることがあります。
しかし、SNSでは「婚前契約書」は思いのほか多くの人に好評でした。
結婚前にお互いの価値観を知るのはよいこと
「お互い、暗黙の了解と思っていたら全然違った…ってありそうですよね。結婚前に価値観のすり合わせができていいと思う」
「一緒に生活する以上、最低限のルールは必要。口で言うだけだと残らないから、忘れたとか、そんなこと言ってないって全然守らない人が出てきそう」
「リアルな生活が始まれば、好きだけで解決できないこともあると思う。そんなときに何かたたき台みたいなものがあった方がいい」
「ルールを決めることで、ふわっとした憧れから、責任を持って結婚を考えられるようになるはず」
など、結婚するにあたってお互いがルールを把握しておくことに対し、好意的な人が多くいました。
嫌がる相手は「話し合いができない人」かも
また、婚前契約書をかたくなに拒む相手に疑問を持つ人も。
「仕事でも、契約書を交わすのを面倒臭がる相手や、ちゃんと読まない人は後々トラブルを起こしやすいんです。契約と聞いてキレるような相手は、結婚生活でもきちんと話し合いができないタイプなのでは」
「こういう契約書に否定的な人は、何もしなくても円満に結婚生活送れてるってことなのかな?うらやましい…」
「婚前契約書をやけに嫌がる人って、約束を守れない、守りたくない側じゃないでしょうか?」
「結婚前に婚前契約のことを切り出したら、愛し合って結婚するのに契約なんてと怒りだして見送りました。でも、結婚後、親と同居しないと言ったのに手のひらを返して同居したり、ギャンブルで借金したり…極端に嫌がる相手は要注意ですよ」
これがあれば落ち着いて話せそう
婚前契約書は、結婚後にすれ違いそうになったとき、落ち着いて話し合うためのツールだと考える人も。
「なんとなくでスタートしちゃうと、家事や育児で片方がしんどいときに何も言えなかったり、ケンカになったり…でも、契約書にしておけば、ほら、これがあるよって言えるし、言われた方も、そうだった、ごめんねってムダに争わなくて済むんじゃないかな」
「この契約書が必要になるような時は、おそらくお互い頭に血が上ってるだろうから、落ち着いて話をする材料として使えそう」
など、賛成の理由をみてみると、多くの人は実際に契約書を発動させて相手の行動をコントロールするというよりは、結婚前にパートナーがどんな人かを知り、結婚後はもめごとを避けるために役立つと考えているようです。
反対の人が気になっていること
一方、婚前契約書に否定的な人は、次のような感想や懸念を寄せていました。
契約書がないと結婚生活が維持できないの?
「お互いを信頼し合えてないから、契約書を作って縛るしかないのでは」
「うちは家事分担を決めずやりたい方がやりたい時にやっていますが、いい関係を保っています」
「規則を厳しくすればするほど、自主性がなくなりそう。学校とかと同じ」
「大人同士なのに、契約書がないと歩み寄れないのかな?想像しただけで息苦しい」
「口頭で、お互いのゆずれないことをいくつか出し合って話し合い、これは守ろうねって約束するだけでよくないですか?」
と、もともと夫婦の価値観が似通っていたり、意思疎通や家事分担がある程度できている人からは「必要ないのでは」という意見が目立ちました。
離婚時が心配
「契約書で、週○時間育児をすること…などと決められて、体調や仕事のために実現できなかったら、離婚時にそれを根拠にわが子に会えなくなったりしそう」
「結婚するときは相手に惚れているから、ちょっと無理めな条件を受け入れてしまいそうだけど、離婚時に契約を守らなかった!と高額な慰謝料を請求されたら理不尽ですよね」
と心配する人も。
しかし、仮に契約書を作っていても、離婚の条件に関しては他のあらゆる事情が考慮されるため、法的には絶対ではないとされています。
ただし、たとえ契約書がなかったとしても、まったく生活費を入れないなど、あまりにも家庭を顧みない行動はやはり離婚時に不利な立場になる可能性はあります。
「契約しても人の気持ちや生活は変わるのに」
また、反対派の人は、いったん契約を取り交わしたら変更できないことに抵抗を感じている人も。
「結婚生活なんて、やってみて初めてこっちの方がいいと分かったり、つど話し合って決めていけばいいのでは」
「先に決めてしまったら、それにずっと縛られて生活にしにくくなりそう」
という意見も目立ちました。
しかし、先に登場したSILVAさんをはじめ、契約書を作ったカップルは、定期的に見直して今の自分たちに合った形にアップデートしている人がほとんどだということです。
おわりに
今回、婚前契約書賛成派と反対派の意見を見ていると、あることに気付きます。
実は、両者の意見は、逆のようでいて、どちらも同じだと思いませんか?
家事分担からお金のことや親の介護など、結婚前も結婚後も日常的に遠慮なく話し合えて、「契約書がなくても心配ないパートナー」と結婚するのが一番。
これはすべての人に共通した考えではないでしょうか。
しかし実際は、相手に遠慮してしまったり、きっと大丈夫だろうと思い込んだり、お金やが介護・性の話をタブー視してしまったりと、結婚前後ともに十分な話し合いができないカップルが非常に多いのも事実だと思います。
「婚前契約書」という名称から、束縛感や味気ないイメージを抱く人も多いと思いますが、結婚前の人も、結婚している人も、ゲーム感覚でいちど作ってみては。
思わぬ意識のずれが発見できたり、言いにくいことを言える良いきっかけになるのではないかと思います。
文/高谷みえこ