政府は、性交後72時間以内に服用する「緊急避妊薬」(アフターピル)を、医師の診察なしで薬局等で買えるように制度を変更する方針を固めています。
性暴力を含めた予期せぬ妊娠を防げる反面、「これさえ飲めばOK」と考えて事前に避妊なしで性交する人が増えるのではないか…という懸念も出ています。
このような状況下でますます重要になってくるのが、子どもの性教育ではないでしょうか。
とはいえ、親から子どもに性のことを話すのはなかなかハードルが高いもの。今回は、少しでも伝えやすくするおすすめ手段の1つとして「絵本」を紹介します。
アフターピル市販化で、より性教育が大切な理由
一般的に「ピル」と呼ばれる低容量ピルは、避妊だけではなく、重い生理痛などの月経障害を軽くしたり、アスリートが体調を管理するために飲むこともある薬。
医師の処方のもと継続的に服用し、正しく飲んでいた場合の避妊率は99%を超えると言われています。
今回、市販化の方向性が示された緊急避妊薬(アフターピル)はそれとは異なる薬で、性交後72時間(3日)以内に服用すれば、24時間以内で95%、25~48時間以内で85%、48~72時間以内で58%の確率で妊娠を防げるとされます。
WHO(世界保健機関)は以前からアフターピルの普及を推奨しており、各国に向けた提言でも以下のように述べています。
・緊急避妊へのアクセスが良くなることによって、性的避妊リスク行動は増加しない
・意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性および少女には、緊急避妊にアクセスする権利があり、緊急避妊の複数の手段は、国内のあらゆる家族計画プログラムに常に含まれねばならない
これまでの海外の状況からみると、緊急避妊薬が市販されたからといって必ずしも無責任な性行為が増えるとは限りません。
しかし、10代など若い世代のカップルでは、お互い正しい知識を持たず、友だちやネットの誤った情報にもとづいて行動してしまう可能性は残ります。
それを未然に防ぐためには、やはり子ども時代に性別を問わず正しい知識を身につけておくことが不可欠といえるでしょう。
幼児におすすめの性教育に役立つ絵本
幼児や子どもを狙った性的犯罪の報道があるたび心が痛みますが、実際には表面化しない被害はさらに多いと考えられています。
中には身近な大人に被害を受けた子もいて「きみが悪い子だからこうなったんだよ、話すと叱られるよ」「みんなに心配かけるから言っちゃダメ」などと巧妙に口止めされるケースもあります。
しばらく前には、幼稚園で4歳の女の子がクラスの男の子たちに性器を傷つけられるというショッキングな事件もありました。
小さい子は妊娠の可能性こそありませんが、上記からも分かるとおり、子どもが性的に誰かを傷つけない・傷つけられないために、正しいルールやマナーは絶対に小さいうちから知っておくべき。
ただ、性教育全体の知識はまだ幼くて理解できない部分もありますので、もっとも重要な「自分の身体も他人の身体も大切にする」という感覚と、そのための具体的なポイントにしぼって教えるのがおすすめです。
なかでも分かりやすく覚えやすい例の1つが「水着ゾーン」といい「水着で隠れる部分は簡単に人に見せてはいけないし、見てもいけない」というもの。「プライベートゾーン」ということもあります。
また、上に加えて「口も食べ物を食べるためのだいじなところだから、触ったり触らせたり、むやみにキスしたりしちゃダメだよ」と教えられればベストです。
絵本は、こういったプライベートゾーンのことをはじめ、小さい子に言葉では説明しにくい身体の仕組みや、通常のスキンシップと性的行為の違いなどを分かりやすく伝えるのにとても重宝します。
以下の絵本は全国の多くの図書館や書店に置かれていますので、いちど手に取って中をのぞいてみてはどうでしょうか。
- 『いいタッチわるいタッチ (だいじょうぶの絵本)』安藤由紀 作/復刊ドットコム
- 『おちんちんのえほん』やまもとなおひで 作 佐藤 真紀子 絵/ポプラ社
- 『ぼくのはなし』『わたしのはなし』山本直英 作 和歌山静子 絵/童心社
また、ママ・パパ向けの本も1冊は読んでおくと、とつぜんの子どもの質問にも余裕を持って答えられるのではないでしょうか。
- 『3~9歳ではじめるアクロストン式 「赤ちゃんってどうやってできるの?」いま、子どもに伝えたい性のQ&A 』アクロストン 著/主婦の友社
- 『お母さん! 学校では防犯もSEXも避妊も教えてくれませんよ!』のじま なみ 著 おぐら なおみ イラスト/辰巳出版
小学生におすすめの性教育に役立つ絵本
小学生時代に、性的虐待や性犯罪被害に遭わないためには、子ども自身が「この行為は許されることではない」とはっきりと確信を持てることが大切です。
とくに身近な大人から被害に遭いそうなとき、子ども自身が何が許されないことなのか分かっていないと、抗議したり逃げ出したりしにくくなります。
しかし、義務教育の課程で子どもたちが受けられる性教育の機会は非常に少なく、一般的には小学校3~4年生で「初潮」についての授業が1回、5~6年生で「いのちの授業」等と名付けられた妊娠・出産に関する授業が1回など、数えるほどしかありません。
そこで家庭での性教育が必要だといわれていますが、ママやパパの多くは専門家ではないので、自分たちの知識や経験だけで話していいものかと迷ってしまいますよね。
産婦人科医をはじめとした専門家監修の「性の絵本」は、1~6巻まであり、購入前にインターネットで内容を確認できます。
『性の絵本』たきれい 著/株式会社キンモクセイ https://seinoehon.jimdofree.com/
1~2巻は、早ければ5歳頃から小学校3~4年生までの子どもに最適。高学年以降、思春期の入り口に立った子には3~4巻がぴったりです。
親からはなかなかあらためて伝えにくい身体や月経・妊娠出産のしくみから、性被害に遭わないために具体的にどうすればいいのかなどを、シンプルで分かりやすいイラストと文章で説明しています。
思春期におすすめの性教育に役立つ本
子どもの年齢が上がるほど重要になるのが、性感染症のリスクについて。
いざとなったら緊急避妊薬が買えるからとコンドームを使用しないでいると、HIV(エイズ)や子宮頸がんなどの性感染症を防ぐことができません。
また、予期せぬ妊娠の可能性が現実的になってくる年齢でもあります。
絵本ではありませんが、以下のような10代向けの性教育の本もおすすめです。
- 『マンガでわかるオトコの子の「性 」』染矢明日香 著 村瀬幸浩 監修 みすこそ イラスト/合同出版
- 『15歳までの女の子に伝えたい自分の体と心の守り方』やまがた てるえ 著/かんき出版
- 『ティーンズ ボディーブック - 新装改訂版』北村 邦夫 著 伊藤 理佐 イラスト/中央公論新社
- 『新版 SEX & our BODY 10代の性とからだの常識』河野 美代子 著/NHK出版
「大事なことだから読んでね」 「お母さん(お父さん)も読んだけど、あなたにも必要だから」
などと手渡すのはもちろん、反抗期でそんな会話も難しい…という場合は、リビングやトイレなどにさりげなく置いておけば、誰もいない時に手に取ってくれるのではないでしょうか。
おわりに
2020年、新型コロナウイルス流行による休校の影響で、未成年の性交渉が増えたり、性教育の授業がカットされたりといった理由で”予期せぬ妊娠”の率も高まっていると言われます。
また、現在はまだ医師の診察が必要な緊急避妊薬ですが、コロナウイルス流行下の時限特例措置として、オンラインで初診から薬の処方まで受けられるようになっています。
いずれにしても、若い世代の知識不足や性暴力によるアフターピルの必要がなくなるような社会をゴールとしていきたいですね。
文/高谷みえこ
参考/緊急避妊薬について | 緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト https://kinkyuhinin.jp/emergency-contraceptives/#faq
現代性教育研究ジャーナル_No.87「わが国の性教育の現状と課題」 https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_201806.pdf
一般社団法人 性と健康を考える女性専門家の会「緊急避妊についてのお知らせ」 https://pwcsh.or.jp/news/pdf/20200430.pdf