「イクメンフォーラム」開催でマインドの転換を図り、「1か月は有給扱い」で収入面での不安を軽減
——「男性が育休を取得する意義」に納得されていない方も多かったのですね。そのようなマインドの転換のために取り組まれたことはありますでしょうか。
森本さん:
制度導入の翌月に、取得対象者とその上司、約1,900名に向けて「イクメンフォーラム」というイベントを開催し、制度導入に向けての社長の思いや、目的、意図しっかりと伝える場をつくりました。
また、男性の子育てや家事支援の活動を行う「NPO法人ファザーリングジャパン」代表理事の安藤哲也さんをお招きし、「父親が子どもに与える影響」や「女性の産後うつの予防」などの育休取得のメリットと、男性が家事育児に参画することで家族の未来像にどのような好影響が出るかなどについてお話しいただきました。
——ただ「休みを取って育児に参加しよう」「女性の負担を減らそう」と声を張るよりも、男性が育休を取ることで得られるメリットや、その先の目的を明確にすることで、「みんなで変えていこう」と理解を深める機会を作ったということですね。
森本さん:
そうですね。家事と育児をシェアすることの大切さとともに、介護や病気などによる突発的な休業など、今後起こりうるリスクヘッジのためにも必要な変化だという新しいマインドを吹き込むことができたと感じています。
——まとまった休みを取得することで、男性社員の仕事への不安、慣れない育児への不安も大きかったのではないでしょうか。
森本さん:
1か月も仕事を休むとなると「収入が減るのではないか」「出世に影響するのではないか」という不安の声もありました。
そういった不安を払拭し、家事と育児に専念してもらうため、「最初の一カ月を有給扱い」とし、イクメン休業取得による「賞与、退職金の算定、昇給昇格に影響なし」と会社側からの意思表示をし、対象社員が「最短でも1か月の取得」を選択しやすい環境を整えました。
また、それぞれの家庭環境、業務上での取得のタイミングも考慮して「最大で4回の分割取得を可能」としました。例えば出産直後に1週間、里帰り出産から自宅に帰ってきたタイミングで1週間、配偶者が職場復帰されるタイミングで2週間、など。お子さんが3歳の誕生日を迎えるまでの期間内で分割が可能です。
導入当初は一括で取得する社員は少なかったですが、現在は、「せっかく休みが取れるのであれば、1か月は育児と家事に集中したい」と言って一括で申請する社員も増えています。
また、慣れない家事と育児への不安を持つ社員も多かったので、休業中の家事と育児の分担などを話し合い、計画を立てるためのツールとして「家族ミーティングシート」を作成。休業中だけでなくその後も継続的に「イクメン」として過ごせるよう、夫婦の連携を深めるきっかけとなる資料を配布しました。
——収入面や復帰後の仕事についての不安を軽減する手厚い待遇からは、「イクメン休業」への会社側の熱意を感じますね。休業中の仕事のバックアップはどのようにされたのですか?
森本さん:
取得予定者には、現在担当している業務や顧客を誰に引き継ぐのかを上長と面談してもらい、引き継ぎをお願いする社員とも業務の進め方や注意点を共有してもらいます。これらの内容を「『イクメン休業』取得計画書」にまとめ、休業に入る一カ月前までに上長に提出してもらうことで、しっかりと事前準備をしてもらいます。
育休取得者の仕事を他の社員に棚卸しすることで、社内コミュニケーションも活発になり、バックアップを担う社員の新たなチャレンジにもつながり、イクメン休業がきっかけで職場が活性化。休業取得者、バックアップの担当者ともに、引き継ぎを通してこれまでの業務フローの見直しや、作業の効率化などの気付きを得る機会にも繋がり、社員の成長にも影響しているという報告も上がってきています。
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