一昔前は、出産時の呼吸法といえば決まって「ヒッヒッフー」というイメージでしたが、いまは必ずしもそうではなく、産院ごとに指示があったり、ママが自分で選べることも増えてきました。
今回は、よく知られているお産のときの呼吸法について、種類や期待できる効果、やってみた先輩ママの声などを紹介します。
なぜお産では「呼吸」がだいじなの?
出産時、「呼吸」が大切とよく言われるのには、次のような理由があるといわれます。
- 体力を温存するためには、「呼吸」に意識を集中させれば痛みから気をそらしやすい
- ゆっくりした呼吸にはリラックス効果があり、痛みや不安を和らげることができる
- 痛みで呼吸が速くなり「過呼吸」を起こすのを防ぐ
- 呼吸をよりどころとして、痛みでパニックになるのを防ぐ
- 深くゆっくり呼吸することで赤ちゃんに酸素を確実に届けられる
適切な呼吸は、ママと赤ちゃんの両方にメリットがあるということですね。
出産時の「呼吸法」の種類
よく知られるお産の呼吸法にはいくつか種類があります。
細かい進め方は少しずつ違いますが、いずれもママの心身をリラックスさせ、できるだけお産が安全でスムーズに進むように考えられたものです。
ラマーズ法
「ラマーズ法」は、1952年、フランスのラマーズ博士が提唱した分娩法です。
日本では1970年頃から普及しはじめ、取り入れる産院も多かったため、誰もが一度はあの「ヒッヒッフー」という独特の掛け声を耳にしたことがあるのではないでしょうか?
ラマーズ法は産院ごとに独自のアレンジも加えられながら発展してきましたが、基本的には、子宮の自然な収縮リズムを生かした呼吸法と身体の緊張をときほぐすコツの習得、マッサージなど周囲の支援が柱となっています。
家族の絆を重視するのも特徴のひとつで、日本で立ち会い出産が広まったのもラマーズ法がきっかけだと考えられています。
ソフロロジー法
「ソフロロジー」は、1960年にスペインの精神科医アルフォンソ・カイセド博士が考案したもので、1972年に産科へ導入されました。
日本に伝わったのはラマ―ズ法より10年ほど後ですが、現在ではソフロロジー法を採用する産院もかなり多くなっています。
心身ともにリラックスすることを重視しており、陣痛の波がきたらゆっくりと息を吐き、自然に空気が入ってくる…という呼吸法で「無理にいきまなくても、するっと赤ちゃんが出てくる」という状態を目指します。
その他の呼吸法
そのほかには、中国の気功法を取り入れた「リーブ法」や、ヨガの呼吸をお産に応用する方法、過呼吸の予防のために「吐く」ことにフォーカスする方法など、さまざまな呼吸法や呼吸のコツがあり、ほとんどの場合、助産師さんが状況に応じていずれかのやり方を教えてくれます。
ママの声「呼吸法、やってみたらこんな感じ」
帝王切開や麻酔を使用した無痛分娩などをのぞいた自然分娩を経験したママたちに、産院で「呼吸法」の指導やレクチャーはありましたか?と聞いてみたところ、結果は以下のようになりました。
- ラマーズ法…27%
- ソフロロジー法…24%
- その他の呼吸法…9%
- その場での指導…35%
- 何もなかった…5%
(上記の回答のうち、ラマーズ法とソフロロジー法には「はっきりと名称は聞いていないが内容からそうだと判断した」も含みます。)
今回のアンケートの中では、ラマーズ法とソフロロジー法が約4分の1ずつ。
陣痛やお産の進みに合わせ、その場その場で助産師さんや看護師さんからの「鼻からゆっくり吸って」「口から細くゆっくり吐いて」などの指示に従った…という人が3人に1人ともっとも多かったようです。
それぞれの呼吸法を体験したママの話を聞かせてもらいました。
「ラマーズ法を取り入れている産院だったので、自分でも何度か練習したのですが、ヒッヒッフーのどれが吸うのか吐くのかよくわからず…(笑)けっきょく、陣痛が来て入院してから病室で助産師さんに教えてもらいました」(Mさん・29歳)
「ラマーズ法で乗り切るつもりだったのに、いざとなったら痛みのあまり、全然そのとおりにできなくて…フ―ッとゆっくり息を吐くのがせいいっぱいでした。それでもけっこう陣痛やいきみを逃すことができて、上手よーとほめてもらえました」(Rさん・32歳)
「後期に入ってから、産院でソフロロジーの講座が3回くらいありました。といっても、最初はどうしたらリラックスしてお産本番を迎えられるかというイメージトレーニングが中心で、3回目だけ呼吸法を練習しました。本番では練習してもやっぱり忘れてしまったので、助産師さんに手伝ってもらいましたけどね」(Kさん・30歳)
「1人目は陣痛の恐怖が強く無痛分娩で産んだのですが、2人目は自分と赤ちゃんの力でがんばりたいという思いが強くなり、ソフロロジーを掲げている産院を選びました。陣痛といきみを逃がすのは大変でしたが、いざいきんでいいよ!となったらあっけないほどスムーズに赤ちゃんが出てきてくれて良かったです」(Uさん・31歳)
「通える距離の産院は、特に呼吸法などの指導もなく、自分の好きなようにという感じでした。マタニティヨガをやっていたので、それを参考に、とにかくゆっくり腹式呼吸で…と自己流でしたが、安産でしたよ」(Wさん・32歳)
いずれにしても、ほとんどの産院では助産師さんや看護師さんが適切に声をかけてくれたり、上手にできていますよとほめてくれたりします。
お産で「この呼吸法を取り入れたい」というこだわりのある人は、事前に産院の方針を確認したり、呼吸法の講座やバースプランのある産院を選んだりするのが良いですね。
おわりに
体力の消耗や、緊張で身体に力が入りすぎるのを軽減し、スムーズに赤ちゃんが生まれてくる助けとなってくれる呼吸法。
事前の練習やイメージトレーニングがしっかりできているに越したことはないですが、もし呼吸法をマスターする自信がなくても、産院スタッフと赤ちゃん、そして自分を信じて乗り切りましょう!
文/高谷みえこ
参考/特定非営利法人ひまわりの会「母子手帳アプリQ&A 正しい呼吸法」 https://www.boshi-techo.com/unregistered/qa/detail.php?qaId=185
日本ソフロロジー法研究会「ソフロロジー法の歴史」 http://www.sophrology.jp/history.html