「鉄道が荷物を運ぶ」と聞くと、多くの方は貨物列車をイメージすると思います。しかし、今回は「鉄道が荷物を運ぶ」と言っても貨物列車ではなく、お客さんを乗せる車両が一般の荷物を運ぶ例を紹介します。

民間の運送会社と鉄道会社とのコラボレーション 

 

近年、民間の運送会社と鉄道会社がコラボする動きが相次いでいます。たとえば、京都市内を走る路面電車「嵐電(京福電鉄)」は2011年からヤマト運輸とコラボ。嵐電がヤマト運輸の荷物をトラックの代わりに運びます。

 

「荷物電車」が走るのは西院車庫~嵐山間です。まず、ヤマト運輸のトラックが集約拠点から西院車庫まで荷物を運びます。西院車庫に到着したら、カートごと電車に移動させます。「トラックから電車への移動は大変そう…」と思うかもしれませんが、トラックのリフトと電車の乗降口は同じ高さになるように設定されています。

 

荷物を積んだ電車は西院車庫を出発すると、嵐山駅に向かって走ります。嵐山駅からは自転車を使って荷物が届けられる仕組みです。もちろん、嵐山駅で荷物を集め、西院車庫からトラックで集約拠点まで運ぶパターンもあります。

 

ところで、なぜ嵐電とヤマト運輸はコラボしたのでしょうか。一つ目は環境への配慮です。嵐電が走る京都は1997年に温室効果ガスの削減をうたった「京都議定書」を採択した街です。嵐電は環境にやさしい電車を運営する鉄道会社として鉄道利用をアピールしてきました。一方、ヤマト運輸も「環境にやさしくしたい」という思いから、トラックから鉄道へのモーダルシフトを検討してきました。つまり、環境に対する考え方が嵐電とヤマト運輸で一致したわけです。

 

嵐電沿線、嵐山周辺は道が細く、オンシーズンには渋滞になりやすい地域です。道にあふれた観光客とトラックがあわや接触!というシーンを何回も見かけたことがあります。一方、嵐電は渋滞に巻き込まれることなく、自動車と比べると安全性も抜群。嵐電とヤマト運輸のコラボは環境以外でもプラスが多いように感じられます。

ローカル線で見られる運送会社と鉄道会社のコラボ

嵐電以外にもローカル線を中心に運送会社と鉄道会社とのコラボが見られます。JR北海道は佐川急便とコラボし、宗谷本線の一部(稚内~幌延)でお客さんを乗せる列車で荷物を運ぶサービスをはじめました。

 

JR北海道のケースは鉄道と運送会社だけでなくタクシー会社も巻き込んでいることです。まず、佐川急便の稚内営業所から稚内駅へ荷物が運ばれます。稚内駅からは60キロ離れた幌延駅まで列車で輸送。幌延駅からはタクシー会社が手配する車両で各配達先まで運びます。その逆もあります。

 

ローカル線を運営する鉄道会社にとって、お客さんを乗せる車両で荷物を運ぶことは「おいしい」話です。現在、ローカル線沿線の人口は急激に減っており、鉄道の利用客も減っています。利用客が減ると路線の運営が厳しくなることは当然の流れです。荷物輸送は鉄道会社にとっては新たな収入源! そのため、今後もローカル線を中心に運送会社と鉄道会社とのコラボは見られることでしょう。

東京でも運送会社と鉄道会社のコラボは見られるのか?

2016年、東京メトロと東武鉄道は佐川急便、ヤマト運輸、日本郵便と一緒に実証実験を行いました。実験は「拠点間輸送」と「拠点~駅間輸送」の2パターンで行われました。

 

・拠点間輸送

物流会社の各拠点東京メトロ・新木場車両基地移動(鉄道)東武・和光車両基地、森林公園検修区物流拠点

・拠点~駅間輸送

物流会社の各拠点東京メトロの新木場車両基地移動(鉄道)新富町駅、銀座一丁目駅、有楽町駅

 

実験で運ばれたものは実際の荷物ではなく「模擬荷物」です。東京メトロ、東武鉄道と運送会社がコラボした背景には環境問題以外に将来のドライバー不足が挙げられています。少子化により、トラックドライバーが不足することは確実視されています。運送会社としては短距離であっても、一度に運べる鉄道に頼りたいところなのでしょう。

 

現在のところ、東京都内で鉄道による荷物輸送の実現化には至っていないようです。ただ、来年の東京オリンピックでは交通規制が行われることから、何かしらの形で実現されるかもしれません。

えっ、新幹線が荷物を運んでいる?

お客さんが乗る車両に荷物を運ぶ例として新幹線が挙げられます。東北・上越新幹線では「レールゴー・サービス」と称し、東京~仙台・新潟間で荷物を輸送します。かつては東海道・山陽新幹線でも行っていました。 ただし、「レールゴー・サービス」は申し込みが必要な特別サービスで、先ほどのような一般の荷物は扱いません。「レールゴー・サービス」の詳細はジェイアール東日本物流のホームページをご覧下さい。

 

文・撮影/新田浩之