結婚40年以上ともなれば、お互い空気のような存在になり、会話が減って心まで離れてしまう夫婦も少なくありません。しかし、キャシー中島さん夫妻はその真逆。子どもが巣立ち、70代を迎えた今も「夫の前ではお腹を凹ませる」と笑い、恋人同士のような時間を楽しんでいます。なんで?本当に?その訳、聞かせてもらえませんか。
いきなり子育て突入で新婚気分はゼロだった

── 芸能界きってのおしどり夫婦として知られるキャシー中島さんと、夫で俳優の勝野洋さん。結婚から47年が経った今も仲睦まじい姿が印象的ですが、子どもが巣立って再び夫婦ふたりの生活になると、「何を話せばいいかわからない」「ふたりきりになるのが気まずい」と、とまどう声も少なくありません。キャシーさんは子育てを終えて夫婦ふたりの生活に戻ったとき、いかがでしたか。
キャシー中島さん:私は逆に、ふたりになれるのをずっと心待ちにしていたんです。なぜなら私たちはつき合って1か月で婚約し、その後すぐに子どもを授かったので、結婚したときからもう「お父さん」「お母さん」の関係だったんです。恋人同士でいられたのは、わずか1、2か月。ふたりだけの時間をゆっくり楽しむ間もなく子育てに突入したので、「子どもが巣立ったら今度こそふたりで恋人同士の時間を過ごしたい」って、ずっと思っていました。
── そもそも出会いは、キャシーさんからの猛烈なアプローチで始まったそうですね。
キャシー中島さん:テレビで『太陽にほえろ!』のテキサス刑事役を演じていた勝野を見て、ビビッときたんです。画面越しに真面目さや誠実さがにじみ出ていて「この人と結婚したら絶対に幸せになれる」と直感しました。
私は16歳からモデルの仕事をしていて、周りには鏡で自分の姿を頻繁にチェックするような、少しチャラい感じの男性が多かったんです。でも勝野は、私の周りにいた人たちとはまったく違って見えました。それで「絶対にこの人と結婚する」と心に決めて、知人をたどって彼の行きつけのお店を突き止め、友だちと毎晩通ったんです。
── ハンターさながらですね(笑)。そこからどうやって距離を縮めていったのでしょう。
キャシー中島さん:最初のうちは顔を合わせても挨拶する程度で、遠くから彼を見ているだけでした。勝野のほうから誘ってくることもなくて、それがかえって「やっぱり軽い人じゃない。思った通り真面目な人なんだ」という確信につながりました。
3か月ほど経ったころ、彼が撮影仲間と来ていて、その内のひとりが「一緒に飲みませんか?」と声をかけてくれたんです。すかさず勝野の隣に座って、ようやく話すことができました。「うちにかわいい猫がいるから見に来ない?」と誘ったことをきっかけに、おつき合いが始まりました。
その後、ふたりで旅行していたところを記者に見つかってしまって、記事になると知った勝野からあわてて電話がかかってきたんです。そこで私が「どうせ結婚するつもりなんだから、婚約発表しちゃえばいいじゃない」と背中を押して。そこからあっという間のスピード婚でした。
「価値観の違い」をお互いが受け入れている
── 交際期間がほとんどないまま結婚生活に突入したおふたり。価値観の違いで衝突することはありませんでしたか。
キャシー中島さん:不思議とぶつからなかったですね。そもそも性格は真逆なんです。勝野はものすごく真面目で、壁にぶつかると「どうしてこうなったんだ?」「何が原因だ?」と考え込むタイプ。対して私は「原因を探しているひまがあったら早く乗り越えて次に行こうよ」と切り替えるタイプです。でも、考え方や感じ方が違うのは当然だと思っていたので「(相手には)そういう捉え方もあるんだ」と、むしろ違いを面白がれたんですよね。お互い、相手を自分の価値観に合わせようとしなかったのが、よかったんだと思います。
── そこから子育ての年月を経て、夫婦ふたりで過ごす時間が増えたのはいつごろでしょうか。
キャシー中島さん:長男の洋輔が2010年にフランスへ留学し、翌年には次女の雅奈恵もフランスへ。そこで夫婦だけの生活になりました。それまでは子どもたちの準備などで毎朝早く起きていましたが、朝の時間にも余裕ができて。「今日は何食べたい?」とリクエストを聞いて、ちょっとおしゃれなお皿を出して、ゆっくり朝食を楽しむようになりました。
そのころは毎朝、ふたりでウォーキングもしていました。並んで同じ方向を向いて歩いていると、目に入るものが会話のきっかけになって、自然と話が弾むんです。「葉っぱが黄色くなってきたね」「あの色、洋服のコーディネートに使えそう」とか。勝野も「光合成がどうので、葉っぱがキラキラしてるでしょ」なんてうんちくを語り出したりして(笑)。若いころに持てなかったふたりだけの時間を、そうやって少しずつ取り戻していきました。
── 長い結婚生活のなかで、夫婦関係そのものが揺らぐような時期はなかったのでしょうか。
キャシー中島さん:子育ての最中は意見が食い違ってケンカもしましたよ。でも、ふたりの関係そのもので揉めたことは一度もないんです。そもそも私からほれ込んで結婚した相手ですから、離婚しようなんて考えたこともまったくありません。
私も勝野も幼いころに両親が離婚していて、家庭への憧れが強かったんです。だから「別れよう」といった言葉は絶対に言わないようにしようね、とふたりで決めていました。それを何十年も守ってこられたのは、勝野のおかげです。私を不安にさせるような人ではなかったですから。
彼は本当に正直者で少しでも後ろめたいことがあると、ロボットみたいに右手と右足が一緒に出ちゃうくらいわかりやすいんです(笑)。私も何か引っかかることがあればその場で聞いて、曖昧なままにしないようにしてきました。そうやって小さな違和感をひとつずつ解消してきたから、今はもう信頼しかないですね。
結婚生活47年も「空気のような存在」ではない

── 結婚生活も40年以上になりました。改めて、勝野さんはキャシーさんにとってどんな存在ですか。
キャシー中島さん:よく長年連れ添った夫婦を「空気のような存在」と言いますけど、私にとって勝野は決して空気にはならないんですよ。今でも気になるし、ふと「あ、彼の指先ってきれいなんだな」と新しい魅力を見つけることもある。私もずっときれいだと思われたいから、毎日お化粧をしますし、彼の前ではちょっとお腹を凹ませたりもします(笑)。
60代になってからのテーマは「いつも夫婦ふたりで」。ふたりで出かけたり、旅行をしたりする時間も大切にしています。それに、人間としても尊敬しています。いちばんいいところは「ありがとう」を本当によく言ってくれるところですね。
── 昭和世代の男性で、妻にそれだけ「ありがとう」を口にする人は珍しい気がします。勝野さんは昔からそうだったんですか。
キャシー中島さん:いえ、結婚前はすごく恥ずかしがり屋で、そういう表現は苦手な人でした。でも結婚してから、私が「一生懸命ご飯を作ったのに、ありがとうって言ってくれないの?」と伝えていたら、だんだん習慣になって、今ではもう「ありがとう」の大安売りです(笑)。
「言わなくてもわかるでしょ」は、なしだと思うんです。「ありがとう」も「ごめんね」も、思っているだけでは伝わらない。長く一緒にいるからこそ、言葉にすることが大事ですよね。ふたりとも70代になり、元気で一緒に動けるのはあと10年くらいかなと思うと、「今を思いきり楽しまないとね」って、よく話しています。
取材・文:西尾英子 写真:キャシー中島