全身ピンクの衣装と甲高い笑い声でおなじみの林家ペー・パー子夫妻。結婚54年を迎えたふたりですが、その原点は師匠のおかみさんが茶碗を放り出すほど周囲が仰天した「格差婚」でした。人気絶頂の妻に劣等感を抱きながらも、なぜ半世紀以上を笑って共に歩めたのか。林家ペーさん(84)に、ふたりの原点と「人生の面白がり方」を聞きます。
売れっ子のパー子に劣等感があった

── 全身ピンクの衣装で仲睦まじい姿が記憶に残る林家ペーさん、パー子さん夫婦ですが、結婚当時は「格差婚」とも言われたそうですね。すべての始まりは林家三平師匠のもとでの「兄妹弟子」としての出会いだったのですよね。
林家さん:そうそう。僕が「ペー平(ペーペー)」として弟子入りしていた林家三平師匠のところに、パー子が入門してきたんです。僕が27歳、パー子は20歳。パー子はもともと歌手になりたくて、作詞家の石坂まさをさんの音楽教室に通っていたの。あの藤圭子さんと同じ先生についていたんですよ。
たまたま石坂先生が三平師匠と親しくて、家に彼女を連れてきたことがあってね。そうしたら、おかみさんがひと目で気に入っちゃって。「パーっと明るいからパー子」とその場で名づけて、弟子にしちゃったの。今までに何十人も弟子はいたけど、パー子は「ドラフト1位」でしたね。
でも、歌手としてやっていきたいと思っていたパー子は、芸人なんて嫌でしょうがなかったわけ。あとで聞いたら、石坂先生とケンカしてえらい騒ぎになったそうです。そうは言っても、あっという間にテレビの冠番組を持つことになってね。『パー子のエプロン寄席』っていう番組で、ゲストに石原慎太郎さんとか、そうそうたる方が呼ばれて。パー子は何も知らずに、プロデューサーに言われるままに原稿を棒読みしていただけなんだけど、そこからオファーがいっぱい来て。やめたくてもやめられなくなっちゃったの。
── そんなおふたりが、ご結婚されたきっかけは何だったのですか。
林家さん:それはもう、彼女のお母さんのおかげ!パー子のお母さんは三平師匠が大好きで、当時、師匠が出演していた『タワーバラエティ』という番組を毎日見ていたんですって。そこに弟子の私も出ていたの。それで「あの三平さんが常にそばに置いているっていうことは、間違いない人間だ」って思ったらしいんです。
そのころのパー子は売れっ子で、レギュラー番組を持っていたし、映画にも出ていて、あちこちから引く手あまただった。一方、僕は弟子になって4年経っても芽が出ず、相変わらず三平師匠の付き人でしょう。恥ずかしいし、劣等感もあったんですけどね。
あるときパー子が、「お母さんが遊びに来ない?って言っている」って誘ってくれたの。お母さんは面白い人で。それから何度かごはんを食べに行っているうちに、「ふたりが暮らす部屋を借りたから」って言うわけ。ちょうど実家の斜め前にマンションがあってね。驚かない?これが人生なのよ。
今も「お兄ちゃん」「スイちゃん」と呼び合う
── そのころには、お互いに結婚相手として意識されていたのですか。
林家さん:全然!彼女は僕のことなんて好きじゃなかったと思う。顔もよくないし、口も悪いしね。ただ、お母さんの言うことは彼女にとって「神の声」だったの。お母さんが100%正しい、お母さんが言うなら間違いないって。
当時、僕は師匠の家の近くの三畳一間に住んでいたんだけど、その汚いアパートに、なぜか遊びにくるんだ。もう、すごい違和感。「なんで来るんだろう」って。で、そうしているうちにだんだん仲良くなったの。彼女は、芸能界にいるとは思えないくらい純粋無垢で、あの通り明るくて、これを言うと怒られるんだけど、ちょっとピントがズレててね。そこがまたいいんでしょうね。
僕が林家ペーとして独立したころに「結婚しようか」って言いました。パー子はそのつもりで待っていてくれたから「はい」って二つ返事でしたね。結婚が決まって、まず師匠のおかみさんに報告したんです。「結婚したいんです」って言ったら、「いいじゃない。誰と?」って。「パー子です」って言ったら、おかみさん、「嘘!」って。運んでいた茶碗が飛んで行っちゃったのを今でも覚えているの。僕はショックでしたね。「どうしてパー子が?よく相手にしてくれたね」というのが、みんなの意見でしたね。
── そこから、芸能界きってのおしどり夫婦になるわけですからね。ご夫婦では、何と呼び合っていらっしゃるのですか。
林家さん:僕のほうが兄弟子だから、パー子は結婚してからも「お兄ちゃん」ですね。今でも「お兄ちゃん」。いつだったか、ペー・パーを知らないお店の人に「兄妹なのに、全然似てませんね」って言われたことがあったの。おかしいでしょ?
僕は、結婚するまではパー子ちゃん、結婚してからは、スイちゃんって呼んでます。本名が粋子(すいこ)っていうの、珍しいでしょ。彼女は6番目の末っ子だから、お母さんは「末子」って名づけたんだって。それが、出生届を出したときに、区役所の人が聞き間違えて「すい子」で登録しちゃったそうです。