不登校で将来、自立できるのか ──。不登校の子をもつ保護者なら誰しも、将来への不安を感じずにはいられないもの。ところが、実業家の小幡和輝さんは約10年間もの不登校を経験したのちに会社を設立。まさに「不登校でも自立できる」を体現しています。そんな小幡さんに、今求められる「稼ぐ力」について聞きました。
AI時代の「稼ぐ力」は学歴ではない
── 約10年の不登校を経て定時制高校に進学した小幡さんは、高校3年生の若さでイベント企画会社を設立。その後、国立大学進学を経て、現在はさまざまな事業を展開しています。長年不登校を経験しているとは信じられない活躍ぶりですが、不登校の子が稼ぐ力を身につけるにはどうしたらいいのでしょう。
小幡さん:僕は不登校時代、遊戯王ゲームのカードを売ってお金を稼いでいました。オークションサイトやカードショップで安く仕入れて別のサイトで高く売ったりして。当時は今ほどネットで相場がオープンになっていなかったので、オークションサイトなら1000円になるカードが、地元のショップでは100円で売られていたんです。そんな地域差や情報ギャップを見つけ出し、自分で考えて動けば成果が出る時代でした。
── それは、何歳のときですか?
小幡さん:13歳ですね。最初は「カードが好き」ってだけでした。でも、自分が不要になったカードを眺めていて、「これ誰か買ってくれないかな」って思いついたんです。この体験こそが、僕にとって「自分の力で稼ぐ」原点になりました。小さくても「自分で考え、価値を生み出した」という成功体験。それが、僕に自信を与えてくれたんです。
稼ぐ力って「目の前にあるリソースを使って、どうやって価値や利益を生み出すか」を考える力だと思っています。特にAIが急激に発達するこれからの時代、求められるのは偏差値の高さや学歴ではありません。「会社に入れさえすれば一生安泰」という時代でもないですよね。
── その発想は、たとえ会社員になったとしても、大事な視点ですよね。
小幡さん:はい。そもそも会社員は「会社のリソースを使って利益を生み出し、その対価として給料を得る」というのが基本の構図ですから、稼ぐ力は不登校かどうかに関係なく、社会に生きるすべての人に必要な力なんです。
不登校の子どもたちに必要なのは、偏差値を上げることではなく、「自分で工夫して価値を生み出した」という小さな成功体験。「学校に行かないなら、何か特別な体験をさせなきゃ」なんて大げさに考えなくていい。もちろん起業資金なんていらないし、もっと軽いノリでいいと思うんです。「手元のものでどうやったらおこづかいが増やせるかな?」と考えてみる機会があるといいんじゃないでしょうか。
僕のときはオークションサイトだったけど、今はフリマアプリとか始めやすいものがいろいろあります。まずは商売の真似事のような体験をゲーム感覚で試してみてほしいですね。
オンラインの支援には限界がある
── 実業家として活躍する一方で、不登校支援を行う会社の代表として、長年オンラインでの居場所づくりにも携わってこられました。そのなかで感じた課題があったそうですね。
小幡さん:今は学校にこだわらなくても学ぶことができる時代です。ただ、「オンラインだけでは、リアルな居場所の価値を補いきれない」と感じていました。
誰かと一緒に笑ったり、没頭したりする「体験」の場が、やはり子どもたちには必要です。リアルなコミュニティの中で主体的に学び、失敗しながら成長できる「対面型の居場所」を作りたい。そうした思いを抱えていたときに出会ったのが、生徒一人ひとりの「個」に寄り添う指導方針の明光義塾でした。その理念に深く共鳴し、2025年に共同で立ち上げたのが「明光フリースクール」です。

──「明光フリースクール」では、具体的にどのような学びが行われていますか。まずはフリースクールの仕組みについても教えてください。
小幡さん:対象は主に小・中学生です。フリースクールに通う場合、在籍する小中学校の校長先生の許可が出れば、フリースクールでの活動がそのまま「学校の出席」として認められる仕組みがあります。
一般的なフリースクールは自由時間が多い傾向にありますが、「明光フリースクール」は明光義塾のノウハウを活かした個別最適化の学びと、リアルなコミュニケーションの両立を目指しているのが大きな違いです。
過ごし方は、基本15時までの開放で、9時から10時の間に登校し、午前中に1時間の学習コンテンツを2つやります。どの課題に取り組むかは生徒の自由です。みんなでお昼ご飯を食べた後の時間は、「もくもくタイム」と呼ぶ自由時間で、勉強する子もいればゲームを楽しむ子もいて、自分のペースで過ごします。
教科書中心の一斉授業はなく、ICT(タブレット端末等)での学習がベースです。ボードゲームや生徒自身がルートや雨天案まで企画・運営する校外学習など、「自分で考える力」を育てる体験プログラムを取り入れています。
── 小幡さんは遊戯王ゲームの大会で地元・和歌山チャンピオンのご経験があり、ゲームのオンライン家庭教師サービス「ゲムトレ」の代表も務めています。プログラムにボードゲームを取り入れているのも、そうしたご経験からですか。
小幡さん:そうですね。ゲーム、特にボードゲームは「相手を読み、自分のリソースを使ってどう勝つか」を考える最高の思考力トレーニングです。単に遊んでいるように見えて、実は「ルールを理解し、そのなかでどう工夫すれば成果が出るか」ということを必死に試行錯誤している。この体験こそが、将来社会に出てから「自分で工夫して価値を生み出す力」、つまり「稼ぐ力」の土台になると考えています。
僕は、遊戯王ゲームと同時に囲碁にもハマっていて、大会にも出場していました。囲碁の攻略方法は会社経営の勉強にもなるという人もいるくらいで、実際、先を読み戦略を練る今の仕事に生きていると感じます。
学校は居心地が悪かったけれど、遊戯王ゲームや囲碁の大会では輝けた。この成功体験は、僕の自己肯定感を高めてくれたし「コミュニティや評価軸を変えることで、輝ける場所はある」ということを学びました。
──「明光フリースクール」がスタートして約1年ですが、手ごたえはいかがですか。
小幡さん:すごく手ごたえを感じています。最初は表情がガチガチに硬く、緊張していた子が、ICTを使った学習やイベント企画を通して、生き生きと自分らしさを発揮し始めるんです。スポット的な対面イベントはやってきましたが、継続してというのはこれが初めて。オンラインでも子どもの成長は見てきていましたが、対面は変化の速さが違うと感じています。
先日、校舎見学に来た子に「ここはすごく楽しいよ」って自分から声をかけてくれたりもして、自発的になるんですよね。安心できるリアルな居場所さえあれば、子どもはこんなに変わるんだなと。
フリースクールは「妥協の選択肢」じゃない
── 学校に馴染めなかった子どもたちが、そこまで自主性を発揮できるようになるのはなぜでしょうか。
小幡さん:そもそも、不登校になる子どもたちは決して「集団生活に敗れた弱者」ではありません。むしろ、「視野が広く、他者の言動に敏感」「画一的なルールや合理性のない命令に疑問を持てる」といった、非常に尖った個性や感受性を秘めている子が多いんです。
現行の学校システムや偏差値至上主義の枠組みの中では、その個性が発揮しづらい。しかし、否定されずに自分を表現できる環境さえ整えば、みんなその才能を開花させることができます。

── フリースクールに魅力を感じても、いざ通うのは敷居が高い印象があります。
小幡さん:現状のフリースクールは、不登校の子の受け皿として社会に認知されています。しかしフリースクールは、決して「ネガティブな選択肢」ではありません。子どもたちが自分らしくいられる安全な居場所です。
よく「習い事や塾で学びを補えばいいのでは」と言われますが、子どもにとって大切なのは、1日の大半を過ごす日中の時間帯に「自分はここにいていいんだ」と安心して過ごせる環境があること。心の安心がないまま習い事を重ねても、根本的な自己肯定感は育ちません。
同時に「明光フリースクール」は、AI時代に対応した柔軟で先鋭的な学びができる教育の場だと自信を持っています。
たとえば、変化の早いAIやプログラミング学習など、国や自治体のルール調整に時間がかかる領域でも、フリースクールなら現場のスピード感で素早く取り入れられます。自分の居場所があり、興味・関心に基づいた現代的な学びを深められるのが最大の強みです。
僕は、フリースクールを「誰もが当たり前に通える社会基盤(インフラ)」にしたいと思っています。そのためには物理的な増設はもちろん、社会全体の意識改革が必要です。保護者が「学校以外でも子どもは十分に学べるし、自立できる」と意識を変えること。その視点転換こそが、子どもの自信を守り、未来を切り拓く力になると思います。
取材・文:堀合優子 写真:小幡和輝