妻からモラハラを理由に離婚を切り出され、形ばかりのカウンセリングに通うも「なぜ自分が悪者扱いされるのか」を本質的に理解できていなかった太田基次さん。盲目なプライドを打ち砕いたのは、職場の先輩から投げかけられた、思いもよらないひと言でした。自分の加害性に初めて目覚め、破滅寸前だった夫婦関係を再構築するまでの知られざる葛藤に迫ります。

「このままではいけない」と思ったけれど…

太田基次
元モラハラ加害者だったと語る太田さん

── 結婚半年後に奥さんから離婚を切り出され、同時に「モラハラ」を突きつけられた太田さん。当初は「自分は正しい」と感じていたそうですが、その後「自分が変わるべきかも」と考えが変化していきました。奥さんとの関係を修復したいと思うようになってから、どのように行動されたのでしょうか。

 

太田さん:このままではいけないと思い、まずは臨床心理士のカウンセリングを受けました。それ以外にも、アンガーマネジメントのセミナーに参加したり、自助グループの集まりに通ったり。いろいろなことを試しましたが、正直なところ、「変われた」という実感はありませんでした。

 

── 当時は「どうすれば変われるのか」がわからない状態だったのでしょうか。

 

太田さん:そうですね。自分なりに努力はしていました。でも、自分の考え方や行動の癖を変えるということは難しくて。今振り返ってみても、このときの私は、まだ妻の気持ちを本当に理解しようとはしていなかったんだと思います。

 

── ご自身が変わるきっかけになった出来事はありましたか。

 

太田さん:職場の先輩と対話するうちに、少しずつ変化を感じられるようになりました。当時、私は公的機関でカウンセラーとして働いていたのですが、20年以上の経験がある先輩に、妻との関係や自分の生きづらさについて相談していたんです。

 

その先輩は、ただ話を聞くだけでなく、私にはなかった視点を投げかけてくれました。

 

たとえば、当時から共働きでしたが、妻がお酒を飲んで終電近くに帰ってくると、私は「なんでこんなに遅くまで飲んで来るんだ」と腹を立てていました。でも先輩から「本当は奥さんのことが心配だったんじゃない?」と言われたんです。さらに、「奥さんは、君が怒ったときどう感じたんだろう」とも。

 

── その言葉を聞いたとき、すぐに受け入れられましたか。

 

太田さん:いいえ。最初は「心配していたわけじゃない。妻が悪い」と思いました。でも、不思議とその言葉が頭に残っていて…。「もしかすると、自分でも気づいていなかった気持ちがあったのかもしれない」と少しずつ考えられるようになりました。

 

また、先輩との対話を繰り返すうちに、妻の立場も少しずつ想像できるようになっていきました。それまでの私は「自分がどう感じたか」ばかり考えていました。でも、そのころから「相手はどう感じているんだろう」と考えられるようになったんです。

 

── ご自身を理解するために、ほかにも取り組まれたことはありましたか。

 

太田さん:先輩との対話と並行して、ジャーナリング(自分の頭に浮かんだことをありのままノートに書き出す)も始めました。私はもともと、自分の考えや気持ちを言語化することが苦手でした。だから、まずは自己理解を深めようと思い、自分が何を感じたのか、何に腹が立ったのか、本当はどうしてほしかったのかを、毎日書き続けたんです。

 

そうするうちに「自分はこんなことを考えていたんだ」と、自分の気持ちを少しずつ整理できるようになっていきました。言葉で綴ることができるようになると、妻に対しても「なぜ怒りにつながってしまったのか」「本当はどうしてほしかったのか」を、以前よりも落ち着いて伝えられるようになったんです。

今でもイライラすることはあるけれど…

太田基次
笑顔で遊具の電車に乗る太田さん、以前はこの笑顔がなかなか見られなかった

── 奥さんとの関係は、その後どのように変わっていったのでしょうか。

 

太田さん:徐々に回復していきました。以前は「家事は妻がやるもの」だと思っていましたが、妻にも得意、不得意があることを理解できるようになったので、自分ができることは自分でやろうと思えるように。今は、料理は妻、洗い物や掃除は私が担当するなど、お互いに無理のない形で家事を分担しています。

 

── 怒りとの向き合い方も変わりましたか?

 

太田さん:今でもイライラすることはあります。でも、「イライラしたときにどうするか」を決めたことで、妻に対して怒りをぶつけることは減ったように感じています。

 

とくに私は、睡眠不足や疲れ気味のとき、騒がしい場所にいるときなど「怒りを感じやすいパターン」があります。それを自分でも理解できるようになったので、「今、イライラしそう」と思ったら、いったんは妻から離れるようにしています。

 

その後、気持ちが落ち着いてから妻に「何が嫌だったのか」「どう感じたのか」を伝えるようになりました。昔は「自分の気持ちを察してほしい」と思っていました。でも今は、一つひとつ言葉にして伝えることを心がけています。

 

── パートナーはその変化をどう受け止めているのでしょうか。

 

太田さん:妻からは「前より話しやすくなった」と言われています。以前は自分でも何を考えているのかわからないまま、怒っていました。でも、今は自分の気持ちを言葉にできるようになったので、夫婦で落ち着いて話し合える時間が増えました。

 

私が感情的になりそうなときは、妻のほうから「少し離れようか」と声をかけてくれることもあります。お互いに「今は距離を置いたほうがいい」と共有できるようになったので、一緒に生活しやすくなったと感じています。

「変わる人」「変われない人」の決定的な違い

── 現在は、パートナーと一緒に事業を運営し、モラハラに悩む夫婦の相談も受けていると伺っています。さまざまな相談者と接するなかで「変われる人」と「変われない人」の違いはどこにあると感じますか。

 

太田さん:一番大きいのは、自分の問題と向き合えるかどうかだと思います。相談に来られて、最初は「自分が悪かった」「関係を修復したい」と話される人は少なくありません。でも、改善のためのワークに進むと「悪いのは妻なのに、なんで自分だけがやらなきゃいけないんだ」と手が止まってしまう人が結構、多いんです。

 

自分の見たくない部分や弱さを認めるのは、本当にしんどいことです。私自身もそうでした。でも、夫婦関係を続けていくためには、「相手が変わること」を待つのではなく、まず自分自身と向き合うことが必要なんです。

 

時間はかかりますし、決して楽なことではありません。でも、少なくとも私自身は、少しずつ変われたと思っています。

 

── 関係を修復できた今、パートナーに伝えたいことはありますか。

 

太田さん:妻には感謝しかありません。今は、相談を受ける立場になり、多くの夫婦を見てきました。だからこそわかるのですが、多くの場合が、早い段階で離婚や別居という決断をされています。

 

妻は、すぐに答えを出さず、私が変わるための時間を与えてくれました。自分の考えや価値観を変えるには、どうしても時間がかかります。その時間を信じて待ってくれたことには、本当に感謝しています。

 

取材・文:佐藤有香 写真:太田基次