離婚を機に見つめ直した次の人生
── ただ、それでも年齢を重ねるなかで、先の人生がふと不安になることは…?
羽田さん:それは正直あります。先のことは誰にもわからないので、やみくもに心配しても仕方がないとは思うんです。それでもときには、「この先、どうしよう」と、えも言われぬ不安に襲われます。
現時点では、ひとりで最期を迎える可能性もあると思っていますし、「どんな最期になるのだろう」とぼんやり考えることもあります。でも、そんなときは「きっとホルモンバランスのせい」「何か栄養素がたりていないのかな」と、少し引いて自分を見られるようになりました。年齢を重ねて、不安との付き合い方が上手になってきているのかなという気がします。
── 年齢とともに、ご自身の心との向き合い方にも変化が生まれてきたのですね。50代に入った2019年には、約150年続いたご実家の屋号を復活させ、オンラインショップ「羽田甚商店」をスタートされました。長く俳優一本で歩んでこられた羽田さんが、新たな世界へ踏み出したきっかけは何だったのでしょう。
羽田さん:大きなきっかけになったのは、40代で経験した流産でした。大量に出血し、輸血寸前までいって約2か月入院しました。そのときに死をすごく身近に感じ、「このまま人生が終わったとして、私は満足だっただろうか」と考えたとき、まだやりたいことがあると気づいたんです。
そのひとつが、自分が本当にいいと思う商品を紹介する仕事でした。ちょうどその頃、自分のやりたいことと、屋号を残したいという思いが重なったんです。事務所も「やりましょう」と協力してくれて、形にできました。自分ひとりでは始められなかったと思います。
人生にいくつかのドアがあれば
── 俳優業とはまったく勝手の違う世界ですが、お店にはどのような形で関わっていらっしゃるのでしょう。
羽田さん:私は主に、商品の発掘やセレクト、宣伝を担当しているのですが、商品を販売する以上、クレームをいただくこともありますし、倉庫での保管や流通にも費用がかかります。商売は、思っていた以上に利益を出すのが難しいことも実感しましたね。でもお客さんに喜んでいただけることが何より嬉しいんです。
── 50代に入ってからまったく新しい世界へ踏み出すことに、ためらいや怖さはありませんでしたか。
羽田さん:むしろ50代は、すごく可能性に満ちた年齢だと思うんです。まだ体力もあるし、発想も豊かで、若い人の感覚も受け入れられる。それまでにいろいろなものを見て、取捨選択してきた経験もあるので、自分に必要なものを見極める力もついています。無理のない形なら、まだ何でも始められる年代じゃないかなと。
ひとつドアを開けると、それまで知らなかった世界が広がり、今まで出会えなかった人たちと出会えます。そこで得た経験が、俳優の仕事に戻ったときに生きることもある。一本道だけを歩くのは苦しくなることがありますが、人生にいくつかのドアがあれば、心の支えにもなると思うんです。
取材・文:西尾英子 写真:羽田美智子