自閉スペクトラム症の人が働ける環境を

── そんなに苦しんでいる人たちが目の前にいても、助けられないこともあるとは…。どうしたらいいんでしょうか?

 

檜尾さん:私がなんとかしたいと思っても、手を差し伸べられる人数は限られています。だから、組織を大きくしたり、講演などで伝えて歩いたりしています。ずっと話を聞き続けた結果、私は「話を聞くだけでは解決しない」と気づきました。なにより、利用者や苦しんでいる人たち自身が役割を持ち、活躍できる場所が必要なんです。

 

ちょうど農林水産省が農福連携(農業と福祉が連携し、障害者の農業分野での活躍を通じて農業経営の発展とともに、障害者の自信や生きがいを創出し、社会参画を実現していく取り組み。高齢化・後継者不足の農家の課題解決にもつながる)を推進していたため、ピュアでも地元の貸農園で農業を始めました。

 

基本的に利用者は日中室内にいることが多く、土日もあまり外出しない傾向があるため、外で身体を動かす機会はとても貴重です。この農業体験から利用者がいい影響を受けているので、最近、奈良県の明日香村の土地を購入し、農園を作りました。農業だけでなく、収穫物を使ったレストランや観光農園テーマパークを開業する予定です。

 

NPO法人ピュア
NPO法人ピュアの20年ビジョンには、学校や病院も描かれている 

── 観光農園テーマパーク構想には、驚きました。働き手は?

 

檜尾さん:もちろん、自閉スペクトラム症の人たちもスタッフとして働いて接客します。コミュニケーションは絵カードや筆談で行う方法を教えます。彼らにとっては、自分から人に近づいて行き、伝えたいことを自ら伝える行動自体が生きるためのトレーニングなんです。これだけでも人生は十分豊かになり、社会参加するきっかけになります。

 

息子のような重度の自閉スペクトラム症の障害者は、一生誰かのサポートを必要とします。それは、ずっと「ありがとう」と言い続けなければならない立場を意味します。でも、役割を持って働くことで、「ありがとう」と相手から言われる立場になれますよね。実際、彼らに「ありがとう」「助かったよ」と伝えると、パッと顔が明るくなりとても喜びます。

 

障害者の就労については、以前、何人かの利用者を障害者雇用枠で企業に送り出したこともありましたが、企業側でも接し方がわからず、結局、みんな戻ってきました。まずは、ピュアのなかで障害者が活躍できるモデルケースを作って、企業や地域の方々に見に来ていただき、理解の助けになればと思います。

 

── そのモデルが地域や社会に広がればいいですね。

 

檜尾さん:私たちのおおもとの理念は「発達障害の方々と地域がつながり合う社会の実現」です。明日香村での事業に関しては、今後、農園で採れた新鮮野菜を使った農園レストラン、暮らしの場としてのグループホーム、田植えや稲刈りなど自然と触れ合う体験型イベント、動物たちとのふれあい広場など、いろんな企画に利用者の皆さんと取り組んでいきたいと考えています。

 

取材・文:岡本聡子 写真:檜尾めぐみ、NPO法人ピュア、株式会社ピュア