人を巻き込まないと清潔なトイレは保てない

── トイレのきれいさが、治安にも関わっているとはよく聞きますね。

 

大井さん:それこそ昔は、公衆トイレの前で若者がたむろしている光景がありましたよね。トイレがきれいだと、「ここの街は治安がいいんでしょうね」と声をかけてもらうことも多いです。でも、やっぱり公衆トイレっていうのは、自分たちの努力と技術だけではずっときれいな状態は保てないと思っています。そこは早い段階で気づいたんですけど、いかに使ってもらう方を巻き込めるかにかかっているなって。みんなで一緒にきれいなトイレを作るというのが面白いし、この仕事の醍醐味でもあると思っています。

 

── どうやって、みなさんにきれいに使ってもらうんですか。

 

大井さん:何より大事なのが、「あいさつ」なんですよ。どの世界でも基本だと思いますが、トイレにも通じるところがあって。こちらから「おはようございます」「気をつけて行ってらっしゃいませ」と元気よく挨拶すると、「トイレきれいだったよ」と声をかけてくださるし、何よりきれいに使ってくれるんです。

 

朝、トイレに入ってくるときに機嫌が悪そうな方も、こちらから挨拶をすると出るときには表情が変わっているのがわかります。1日の始まりにきれいなトイレを使ってもらって、その人の1日が楽しくなってほしいと思っています。

いつか全国の公衆トイレを再生したい

── 一緒に仕事をするトイレ清掃員を、奥多摩ピカピカトイレットの略で「OPT(オピト)」と名付け、会社を立ち上げて活動しています。知名度が上がって人材も集まっているんじゃないですか。

 

大井さん:知名度は上がったのですが、女性のスタッフが不足しています。今の時代、あんまり男性とか女性って全面的に出すのもなぁと思うんですけど、女子トイレは、やっぱりひとりでもお客様が入っていると僕たちは掃除に入れません。利用される方が出るのを待っていると時間のロスになってしまうので、女性のスタッフが必要です。

 

うちの会社は、お給料を最低月30万円からスタートして、そこから上げていくので、業界の中では高水準だと思うんですけど、やっぱり仕事内容に抵抗があるんでしょうか。奥多摩まで通うのが遠いとも言われますし、そんなに人材は集まらないんですよ。

 

── 給与はどういうときに上がるんですか。

 

大井さん:僕が社長なんですけど、見ていて「頑張ってるな」と思ったら翌日からポーンと3万円アップなんていうのもできます。ただ、トイレ清掃だけではなくて、YouTubeなども顔出しでしているので、トイレ掃除だけを黙々としていたいという人には合わない会社かもしれません。

 

── さまざまな仕事の依頼がきていると伺いました。

 

大井さん:毎日メールを開くたびに、いろんな依頼が来ています。フランチャイズ展開をさせてほしいといった依頼もありますし、いちばん多いのは講演の依頼です。でも、講演は全部断ってるんです。講演じゃなくて「公園」のトイレなら大歓迎なんですけどね(笑)。やっぱり現場をよくしていくほうが好きなんで、直接、「このトイレを掃除してほしい」という依頼はいくらでもお待ちしてます。

 

行政や清掃会社と組んでできることがたくさんあると思っていて、どうやってトイレをきれいにしていくかをみんなで考えて、つながりを作れるような企画をずっと考えています。実際にJR東日本や東京都からの依頼もありますし、北海道から沖縄まで、すべての公衆トイレの再生をしてみたいですね。

 

取材・文:内橋明日香 写真:株式会社オピト