清掃員のメンバーは通称「OPT(オピト)」
── モップやブラシは使わず手作業で磨き上げる丁寧な仕事ぶりで、奥多摩のトイレが見違えるほどキレイになったと話題を呼び、出版の依頼を受けて著書も出されました。清掃員のメンバーを「OPT(オピト)」と名付けて、YouTubeなどの活動もしているそうですね。仕事の幅も広がっていると伺いました。
大井さん:「便所コオロギーズ」とか、メンバーが出してくれたセンスがない候補が他にもいろいろあったんですけど(笑)。OPTは、「奥多摩ピカピカトイレット」の略で、うちの妻が名付けました。清掃を担当している公衆トイレにはオリジナルのテーマソングを流して僕たちのポスターを貼って、ハンドソープが入ったボトルにも「紙に見放されたら自分の手でウンを掴め」とかいう言葉を書いて楽しんでいます。
── 失礼かもしれませんが、ブリーチした明るい髪でオシャレなファッションという大井さんのスタイルとトイレの清掃員というギャップも注目されそうですね。
大井さん:前職でうつ状態と言われて円形脱毛症になり、それがたくさんできると髪の毛がないところがどんどん繋がっていって、ザビエルのようにハゲました。治療して生えてきた髪の毛はところどころ真っ白で。でも、「おぉ、これはメッシュみたいでかっこいいな」と気に入って。もう黒い髪の毛が生えてきてるんですが、あのとき家から出られなかった自分とこうして働けていることへの感謝の気持ちを忘れないようにと、今もわざと明るくしてるんですよ。
この見た目なんで、若い子からウケるかなと思ったら、僕、なぜかお堅いおじさんから好かれるんです。先日も東京都から仕事の依頼がありました。
── 仕事ぶりから「真面目さ」が滲み出ているからでしょうね。
大井さん:毎日スパイダーマンみたいな低姿勢で床に這いつくばって、手作業で便器や床を磨いています。
仕事の「かっこよさ」は自分のなかにあった
── 10年近くこの仕事をされているそうですが、目指している「かっこいいトイレ清掃員」になれていると思いますか。
大井さん:人が憧れるような仕事を目指そうと思ってましたけど、今は「かっこいい」という仕事の定義が、自分が気持ちよくなれた瞬間があるかだと思ってるんです。僕は毎日トイレ掃除をして帰ったら、まずお風呂に入るんです。そのあと、「プシュッ」ってビールを開ける。そのビールが美味しく感じるか苦く感じるかで、「今日、どんな仕事ができていたか」振り返ります。美味しいビールが飲めた瞬間は、かっこいい仕事ができた日だと思いますね。
──「かっこよさ」は他人が決めるものではなく自分のなかにある。まさにかっこいいですね。当時、小学1年生で「パパ、なんでこの仕事してるの」と泣いて帰ってきたという娘さんも大きくなられたでしょうね。
大井さん:娘は高校2年生になりました。うちの娘は朝、学校に行く前に、家のトイレに行かないんですよ。学校で行ってるのかどうかわかんなかったんですけど、体に悪いよなと思っていました。でも、たまたま今朝、駅のトイレで娘に会ったんです。「えっ、家じゃなくてここのトイレに行ってんの!?」「そうだよ、いつも私ここでしかしないよ。しかも場所も決めてる」って。もう、嬉しかったすね(笑)。公衆トイレに入るなんてことは絶対しない娘だったんで、本当に驚きました。僕のこと、「応援してる」とかそんなことは絶対言わない娘だけど、父親が磨いたトイレに安心して入れてるって、知れただけで十分ですよ。
取材・文:内橋明日香 写真:株式会社オピト