AIを頼りにしたら仕事の進め方が変わって
── 拓人さんは苦しくなると「逃げグセがある」とおっしゃっていましたが、試験での合格が自信につながったんですね。転職活動の様子は?
拓人さん:「同じ立場から支えることもできるのでは」と、障害のある方の就労支援に関わる仕事を希望しました。自分の発達障害をカミングアウトしながら一般雇用枠で応募し、無事に採用してもらえたんです。入社後2年間、事業所で就労移行支援に関わるなかで、利用者さんのパソコン操作やスキル習得を支援する機会があり、自分自身ももっとICTの知識を身につける必要があると感じました。そこで、平日夜にパソコン教室に通い、ICTプロフィシエンシー検定試験(P検/旧パソコン検定試験)2級を取得したんです。
この資格取得が社内に伝わり、本社のICT推進室(当時)への異動について声をかけてもらったんです。本社に転勤すれば、自宅を出てひとり暮らしをする必要がありました。「発達障害のある自分が、経験のない仕事を本当にできるのか」という不安はありましたが、「こんな機会は2度とないかもしれない」「今は不安でも、これからの自分なら少しずつ形にできるかもしれない」という気持ちで、本社への異動を受けることにしました。
── 大抜擢ですね!転勤してからどんな工夫をしていますか?
拓人さん:私は障害者雇用枠ではなく一般雇用枠で入社しており、どんなときもまずは自分で工夫しながら業務に向き合う意識を強く持っていたんです。最初の年は、どんな仕事も「やります」と引き受け、後から調べながら業務を進めていました。
上司に相談しやすく、困ったときには親身に話を聞いてもらえる恵まれた環境でした。ただ、自分の特性として、人に相談する前に状況や論点を整理しないと、うまく質問できない難しさがあるんです。そんななか、初めて業務でプログラミング関連の作業に関わった際、上司から「ChatGPTを使うとコードを読む助けになる」と聞き、AIを業務に取り入れました。
最初は、AIをおもにコードの確認用に使っていましたが、次第に文章作成や業務整理、説明の準備などにも自分なりに応用するようになったんです。AIの回答をすべて鵜呑みにせず確認しながら使うことで、自分の考えを整理し、根拠を持って周囲に説明しやすくなりました。
私は昔から、何かを始める前に頭の中で流れを組み立てておかないと動き出しにくいところがありました。とくに人と話すときは、事前に話す内容を考え、相手がどう反応するか、その反応にどう返すか、最後にどう話を終えるかまで想定してから臨むことが多かったです。会話が予定通りに進んでいる間は動けるのですが、想定が崩れるとフリーズしてしまうことも。
行動するときも同じで、事前に頭の中でスケジュールを立て、それに沿って動く感覚です。ただ、大学生くらいからは、予定が崩れたときに一度頭を真っ白にして、崩れた地点を新しいスタート地点として、そこからまた組み立て直すように意識するようになりました。福祉の現場では、予定通りにいかないことが多かったので、そのときの経験も大きかったと思います。AIは、そうした頭の中の整理や組み立て直しを、言葉にしながら進められる相手として、自分に合っていました。
現在はまずAIを使って考えを整理し、それでもわからなければ上司に質問・相談しています。事前に自分の中で整理してから相談できるようになったことで、質問の内容も具体的になり、上司にも周囲にも伝えやすくなりました。
── ここでAIが出てくるのは意外でしたが、たしかに仕事のパートナーとして頼りになりますよね。もうひとつの心配事だったひとり暮らしは?
拓人さん:忘れ物の多い自分がひとり暮らしをできるのか不安でしたが、「できることしかやらない」方針でなんとかなっています。食事は冷凍宅配弁当を利用して自炊の負担を減らし、掃除はルンバを活用し、そのほかの家事も習慣化することで、今は満足できる生活を送っています。
現在31歳になり、周囲の結婚などを見て社会的なプレッシャーを感じることもあります。ただ、今は自分の生活を安定させることを優先しており、誰かと一緒に暮らすことについては、まだ具体的に考える余裕はあまりありません。