父の入院「奇跡のような瞬間を見せてもらった」

── そうして穏やかに過ごされるなかで、2017年、お父さんが自転車に乗っているときに転倒し、救急搬送されました。入院された当時のことは覚えていますか。
アイリさん:私は外出していましたが、母から連絡がきてすぐに病院に駆けつけると手術中でした。当時は父がまだ相撲協会にいたのでニュースを発表したり、知り合いの方が駆けつけてくださったり、あまりにドタバタしていたのであまり記憶がないんですけど。
手術が終わって1、2週間はICUにいましたが、家族でしんみりするとか、悲観的になる感じではなかったですね。それより歌を歌ったり、話しかけたりしていて。
── ICUにいるお父さんに、歌を歌うんですか?
アイリさん:先生から話かけたり、歌を歌ったり、意識が戻らない間も刺激を与えてくださいと言われたんです。「今日も晴れてるよ」と話しかけるとか、母の歌をふざけて歌うとか。根が明るい家族なので、「こうなった以上、みんなで頑張ろう!」という感じでした。
その後、父は意識を取り戻しましたが、第一声は自分の心配よりも「(お相撲さんたち)誰も辞めてない?」でした。父の気持ちを汲み取りながら、退院したらちゃんと相撲部屋に戻してあげたいと思いましたね。私は父に「三途の川は見えた?」と聞いてみたのですが、「見えなかった」と言っていましたね(笑)。
── 困難にもめげない、明るいご家族ですね。その後はリハビリ病院に転院されました。
アイリさん:10月に倒れて12月にリハビリ病院に転院しましたが、当初はひとりで車椅子に乗ることも難しく、退院後は杖で歩くことさえ想像できませんでした。でも、医療従事者の方々にすごくよくしてもらい、父もリハビリに励んでいました。
12月はもともとお相撲さんたちが老人ホームや施設、幼稚園などに呼んでいただき、お餅つきをする季節なんです。父は外出できる状況ではなかったのですが、担当してくださった先生方が病院のイベントでお餅つきをしてくださって。そのときに「みんなの前で父を歩かせたい」と言ってくださったんです。
まだとてもそんな状態ではなかったのですが、足に装具をつけて、先生方の力を借りながら、なんとか数歩だけ歩くことができて、一緒にお餅までつかせてもらって…。奇跡のような瞬間を、たくさん見せてもらいました。
── すごく協力的な病院だと思います。入院中、お母さんの様子はいかがでしたか?
アイリさん:父もそうですが、母も弱音はいっさい吐きませんでした。家族それぞれ思うことはあったと思いますが、何より「父を家に帰そう」という思いは一致していました。
うちは、私が子どもの頃から初めて会った人にも「家族の仲いいでしょ」と言われるくらい、ずっと仲がよかったんですけど、父が倒れてさらに家族の絆は強くなった気がします。父が倒れたことは私にとっても人生の大きな転機でしたが、できるだけサポートしようと強く思い、退院後は一緒にリハビリを続けてきました。