陸上では味わえなかった「達成感の共有」

── 最近は写真の発信だけでなく、複数のコスプレイヤーでチームを組んでダンスを披露するなど、集団で作品をつくる機会も増えていますね。

 

絹川さん:そうなんです。ただ、ずっと陸上の「個」の競技しか知らなかった私にとって、チームで動くことは想像以上に難しくて…。今、陸上時代の挫折とはまた違う、新しい「壁」にぶつかっている最中です。パフォーマンスや取り組み方に対して、メンバーごとの温度差をどう受け止め、つまずいている仲間にどう手を差し伸べるか。どんな声をかければみんなの気持ちがひとつになるのか。自分ひとりが速ければよかった陸上の世界とは勝手が違い、試行錯誤の連続です。

 

絹川愛
シャープな顔立ちが際立ち、男装コスプレの完成度をさらに高めている

── それは陸上選手時代にはなかった感覚でしょうか。

 

絹川さん:高校時代に主将を務めた駅伝もチーム競技ではありましたが、タスキを渡す一瞬を除けば、結局、自分の走行区間をひとりで走る個人戦の集合体。共同で何かを作り上げる感覚は、30代の今、まさに学び直しているところですね。

 

ただその反面、団体ならではの救いも感じています。個人競技は自分がダメならそこですべてが終わりですが、今は私がミスをしても誰かがカバーしてくれるし、逆に誰かが崩れたときは自分が支えることもできる。終わったあとに仲間と「頑張ったよね!」と感情を共有しあえる喜びは、選手時代にはなかったものですね。

 

選手時代はどんなに結果を出しても、その夜には「明日からはこれを死守しなければならない」プレッシャーに追われ、達成感の余韻に浸る時間は一秒もありませんでした。それが今は、みんなで喜びをわかち合い、お互いの気持ちを上げあうことができる。「達成感って、浸っていていいものなんだ」と思えたことは、初めて味わう感覚でした。

 

これまでは自分が倒れないために、必死にひとりでできることを増やしてきました。でも今は、身につけてきた知識や経験が、チームの誰かが困っているときにサッと助け舟を出したり、作品づくり全体を支える力として活かせたらと思っているんです。それが今の私の新しい挑戦です。

 

取材・文:西尾英子 写真:絹川愛