「実は陸上選手」公表すると意外な依頼が
── とはいえ、元トップアスリートだと、動きや体力面などでうっかりボロが出そうなものですが…。
絹川さん:あるとき、コスプレ仲間とディズニーシーで待ち合わせをしていて、私が遅刻してしまったんです。「舞浜駅にいるから今から行くね」と、ダッシュで向かったら、5分後には到着して。息ひとつ切らさずに現れた私を見て、「えっ、早くない?絶対タクシーを使ったよね?」と、怪しまれました(笑)。後になって陸上選手だったことを伝えたら、「妙に体力あるな、と思ってたんだよね」と納得されましたね。
── さすがにそこは隠しきれませんでしたか(笑)。ちなみに、絹川さんのコスプレは男装オンリーなんですよね。
絹川さん:はい。ただ、男性になりたいわけではなく、カッコいい男性像を演じたいという変身願望ですね。自分を別のキャラクターにどれだけ変えられるのかが醍醐味なので。
── 現在は、インフルエンサーやコスプレイヤーとして精力的に活動されています。陸上競技の引退後に勤めた謎解き施設の正社員から、コスプレの世界に舵を切ったのはなぜだったのでしょう。
絹川さん:コロナ禍で謎解き店舗の営業が難しくなった時期、趣味で毎日SNSにアップしていた男装コスプレが、思いがけず注目されるようになったんです。コスプレ専門誌の賞をいただいたり、中国の人気ゲーム『第五人格』から、公式コンパニオンの依頼をいただいたりと、コスプレの仕事が徐々に増えていって。趣味が仕事として成立する方向性が見えてきたのがその頃です。今はインフルエンサーやコスプレイヤーがイベントを開けるカフェ&バーの正社員として働きながら、活動も続けています。
── そして2024年には、人気コスプレイヤーの「蓮弥」が、実は元陸上選手の「絹川愛」という事実を公表されました。ずっと伏せてきた過去を打ち明けるときは、かなり迷いもあったそうですね。
絹川さん:コスプレ仕事の打合せの雑談で自分のこれまでの陸上時代の人生も話したら、「その経験、すごく面白いから絶対に出したほうがいいよ」と、背中を押してもらって。自分をすべて見せてしまったほうが、新しい縁や可能性が広がるのではないかと感じました。
ただ、選手時代のイメージと違うとがっかりされたり、奇異な目で見られたりするんじゃないかと、すごく怖かった。でも、いざ公表してみたら否定的な声はひとつもなく、それどころか、「コスプレ姿でマラソンのイベントに出てほしい」といったユニークな仕事の依頼までいただいて。交わるはずのなかった陸上とコスプレの人生が思いがけず、つながり始め、「人生って何が起こるかわからないし、面白い」と、今の自分を楽しんでいます。
取材・文:西尾英子 写真:絹川愛