10人に2人が卒業式で涙する訳
── 驚くべきは、卒検を終えた後の卒業式で涙を流す教習生がいるとか。親御さんから「運転だけでなく、見違えるほど人間性が成長した」と、お礼のハガキも届くこともあるそうですね。「免許を取りに来て泣いちゃう」のは、ちょっと信じがたいのですが…。
米澤さん:卒業式で10人に2人は泣いています。なぜ涙が出てくるのか。これは教習所の理念が関係します。「心と技の交通教育を通じお客様に永遠の安全を提供する」を掲げ、仕事の源泉は「お客様からのありがとう」。感謝が喜びとなり、やる気につながり、成長につなげる。「お客様に喜び、感動して、ずっと心に残してほしい」が私たちの願いなんです。
教習は基本的に担当指導員制ですが、技能教習では別の指導員が担当する場合もあります。そのため指導員同士で「こういう子だからよろしくね」と情報を共有し、フォローする体制づくりをしてきました。所内で見かけたら、気軽に声かけもする。信頼関係をつくりながら、ほめて自己肯定感も高めていく。その教えが醸成されて卒業を迎えると、自然と涙に変わるのだと思います。

── 他人から認められにくい世の中で思春期の教習生が日々、自己肯定感を感じていける。これから社会に出ていく自信の第一歩を贈ってもらえる、そんな意味にすら聞こえてきます。
米澤さん:多くの教習生は18〜22歳前後。もちろん免許取得のために指導し、接しますが、それ以上に「自分で自分を認められる」人であってほしい。誰にでも可能性や成長の余地があると思っています。私たちがそのことに気づく「支え」になれたら、これほど嬉しいことはありません。
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教習所が若者に贈ったのは、免許証以上の「自信」でした。「厳しく育てるのが愛」という価値観のなかで、私たちは自分を認めることを忘れてはいないでしょうか。大人になってから、誰かにほめられて救われた記憶。そんな温かな循環が、今の社会を少しずつ変えていくのかもしれません。
取材・文:西村智宏 写真:ほめちぎる教習所 伊勢