「美人魚屋」という言葉への戸惑いと、YouTubeへの決意

森朝奈
アラスカにて岩アイナメを抱えて

── 葛藤を経て、現在は後継者を支援する「跡取会」も発足されていますね。

 

森さん:家族経営の後継者は、周囲の期待と遠慮の間で板挟みになり、孤独になりがちです。私自身、「良い跡取り」でいようとするあまり、父や現場の意見・希望を優先し、自分が本来していかなければならない決断を先送りしてしまった時期がありました。だからこそ跡取会は、成功例だけでなく失敗談や葛藤も率直に共有し、各自が自分の経営の軸を見つける「対話の場」にしています。

 

跡取りは選ばれた存在ではなく、「毎日選び続ける人」です。先代を否定せず、自分の代で何を残すのか。迷いながら進む姿勢そのものが、会社の物語となり、次の世代へのバトンになると信じています。

 

── メディアでは「魚屋の跡取り娘」として注目されましたが、容姿ばかりに焦点が当てられることへの抵抗もあったそうですね。

 

森さん:最初のうちは店の宣伝をしなければという気持ちで、とにかく必死にすべてのオファーを受けていました。お店は順調にたくさんのひとに知っていただけましたし、社内は喜んでいました。ただわたし個人としては、インタビューで水産課題であったり、自分たちが魚を扱っている想いやいままでのプロセスを語っても存分に伝えられず、「美人魚屋」「看板娘」といった切り取られ方をして露出されてしまうことに、次第に疑問をもっていったんです。見た目についてジャッジされたり、SNSでの誹謗中傷やストーカー被害といったトラブルにも直面しました。

 

── それが、このあとYouTubeを始めた理由のひとつに?

 

森さん:はい。切り取られた枠でしか発信できないのは、本来伝えたいことのギャップが生まれると感じたことから、自分本来の言葉で、自分の責任で発信できる自社のメディア媒体を持ちたいと思ったんです。

 

── 最近の動画では、水産業の社会課題など、かなり踏み込んだ発信もされています。 

 

森さん:現場で働くほどに、資源枯渇や後継者不足の深刻さを痛感します。漁師さんの思いや背景にあるストーリーを消費者に届ける「伝承」こそが、魚屋の本来のあり方ではないか。YouTubeを通じて一次産業のリアルを届け、誰かの意識を変えることが業界全体の力になる。自分のやりたかったことが、ようやく形になり始めた実感を抱いています。

 

 

周囲の期待に応えることと、自分の正義を貫くこと。 その狭間で「正解のない孤独」に震えた経験が、あなたにも一度はあるはずです。 誰もジャッジしてくれない場所で、それでもあなたが「今日この役割を生きる」と選び続ける理由。その覚悟の裏側にある、あなただけの葛藤はどこに向かっていますか。

 

取材・文:西尾英子 写真提供:森朝奈